ベシワク

ルーガル!

決戦から二日経った。
ルーガルが目覚めたと聞いた僕は、病室へ駆けつけた。病室といっても、ジャハにある民家の一室を借りたものだ。

ルーガルはベッドから降りて、隣のベッドに眠るリリーシカを見つめていた。

ベシワク

ルーガル。もう動いて平気なの?

ルーガル

具合は悪くない。リリーシカの状態は?

ベシワク

まだ目覚めない。魔力切れではないって、お医者さまは言ってたけど。

ルーガル

私の魔力も魔結晶も、リリーシカの体にとっては異物。上手くなじむか、さもなければ拒否反応が起こるかだ。

ベシワク

きっと目覚めるよ。それに・・・最後の作戦を考えたのは僕だ。君のせいじゃない。

ルーガル

そもそもが私のせいだ。魔力を分け与えたことも、いや、最初からずっと、私はすべきことを怠ってきた。

ルーガル

リリーシカ・・・君には悪いことをした。

ルーガルの目に涙がにじんだ。
動かないリリーシカの手を強く握る。

ルーガル

従順は悪徳だ。なのに私は従順だった。私がすべきは両親に従って君を閉じ込めることではなく、君を連れ出して村を焼き滅ぼすことだったのに。

リリーシカ

・・・口を開けば物騒だな、君は。

ハッと、ルーガルが息をのんだ。僕も顔を上げた。

リリーシカ

ほかにも、やり方はあるはずだよ。

ルーガル

私には思いつかない。・・・君と二人で考えれば、思いつくかもしれない。

リリーシカ

仕方ないなあ、ルーガルは。じゃあ、二人で考えよっか。これからどうすればいいか・・・

リリーシカはルーガルの頭をなで、クスクスと笑った。

さらに二日後。
"対ジャハの魔女"作戦本部は、“ジャハの魔女被害地復興”作戦本部へと生まれ変わっていた。

少将

というか、昨日の時点では“ジャハ復興”作戦本部だったのですが。

相変わらず本部長の座にいるマカスター少将が言う。
確かに看板には、そう書かれて訂正された跡がある。

少将

あの二人が、建物の損傷をあっさり直してしまいましてね。魔物も早くに片付きそうだし、これなら被害を受けた場所をまとめて任せたほうがいい。

ベシワク

あの二人?

少将

ジャハの魔女リリーシカと火の玉のルーガル! あの厄災姉妹ですよ。

少将が窓の外をにらむ。そこではルーガルとリリーシカが馬車の支度を待っていた。

二人はこれから、リリーシカが荒らして回った場所をめぐって旅をする。魔結晶を返したり、畑や建物を直したり、やることは多い。

ベシワク

リリーシカの罪はそれで許されますか?

少将

さて、何しろ裁判をしてないのでね。本来なら判決まで罪人は閉じ込めておくべきですが、復興の手伝いができるなら、させたほうがいいというわけで。

つまり、労働のあとで追加の罰が与えられる可能性もある。
それでも復興への貢献度によっては、裁判で有利になるだろう。

ベシワク

ところで少将殿。まだ謝罪の言葉を受けていませんが?

少将

・・・貴殿が魔力を持たないことについての侮辱的な発言、申し訳なかった。あの場での発言をすべて撤回します。

ベシワク

よいご判断です。

すごく苦々しい顔をしているのが気になるけど、これ以上粘っても関係を悪くするだけだろう。僕は少将のもとを引き上げた。

ダグラス

ようやく来たな、見送り! もう出発するところだったぞ。

ベシワク

ダグラス。あなたが二人に付き添うんだね。

ダグラス

その通り。こんなの左遷だろ! 中央を離れてあちこち回る上、どれだけ時間がかかるかもわからないなんて。きっとおまえらに負けたせいだ!

ベシワク

そうかなあ。リリーシカのお目付け役なら、魔法での戦いに慣れた優秀な人をつけると思うけど。

ダグラス

えっ。

ルーガル

ベシワク。

ルーガルがダグラスを押しのけて現れた。

ルーガル

君は島に帰るのか。

ベシワク

リリーシカから〈勇者の魂〉を返してもらったからね。早く島に届けたい。

ルーガル

そうか。

ベシワク

でも本当は、君たちについていきたい気持ちもあるんだ。ルーガル・・・

ルーガル

なんだ?

ベシワク

僕は君が好きだ。君が少しでも僕を想ってくれるなら、旅を終えたあと島に会いに来てほしい。

コペ

ああー、戦闘用人形1号が・・・

ヤムカ

そういうのは二人きりのときに話したらどうだ!?

コペ

でもヤムカ、もうタイミングがないでしょ。

ヤムカ

この二日間でいくらでもあっただろ!

ヤムカはコペと一緒に、アトリエへ帰る馬車の支度をしているところだった。少し離れた場所にいるけど、こちらの話が聞こえたらしい。

ベシワク

タイミングは・・・確かにあったけど。なかなか言えなかったんだから仕方ないだろ。

ルーガル

ベシワク。君の気持ちはあきらめたほうが身のためだ。

ベシワク

振られた・・・

ルーガル

私も君が好きだが、私が誰かを愛すると悲劇が起こる。

ベシワク

えっ。

ルーガル

リリーシカの件でわかった。私は自分以外の他人を愛することに向いていない。自分と相手の違いが悲しくて、相手を壊してしまう。

ベシワク

えっと、つまり君は・・・壊してしまいそうなくらい僕が好き?

ルーガル

ああ、そうだな。

コペ

2号と3号が!!

ヤムカ

両想いかよ! 心配して損した・・・。一旦部屋戻ろうぜ、コペ。

コペ

あたしはもう少し見守ってたいけど。

グージィ

サンセイ! サンセイ!

ヤムカ

オレの連れ、デバガメしかいねえ。

どうしよう。立ってられないくらい嬉しい。
僕はめまいを抑えて、顔を上げた。

ベシワク

ルーガル。僕は君の、僕とは違うところが好きだ。違うことは悲しいことでも寂しいことでもない。君の旅が終わったら、僕から会いに行くよ。

ルーガル

そうか。うん、楽しみに待っている。

ルーガルが手を差し出した。
僕たちは別れの握手をして、でも、再会を約束した。

   

THE END