決戦から二日経った。
ルーガルが目覚めたと聞いた僕は、病室へ駆けつけた。病室といっても、ジャハにある民家の一室を借りたものだ。
ルーガルはベッドから降りて、隣のベッドに眠るリリーシカを見つめていた。
ルーガル!
決戦から二日経った。
ルーガルが目覚めたと聞いた僕は、病室へ駆けつけた。病室といっても、ジャハにある民家の一室を借りたものだ。
ルーガルはベッドから降りて、隣のベッドに眠るリリーシカを見つめていた。
ルーガル。もう動いて平気なの?
具合は悪くない。リリーシカの状態は?
まだ目覚めない。魔力切れではないって、お医者さまは言ってたけど。
私の魔力も魔結晶も、リリーシカの体にとっては異物。上手くなじむか、さもなければ拒否反応が起こるかだ。
きっと目覚めるよ。それに・・・最後の作戦を考えたのは僕だ。君のせいじゃない。
そもそもが私のせいだ。魔力を分け与えたことも、いや、最初からずっと、私はすべきことを怠ってきた。
リリーシカ・・・君には悪いことをした。
ルーガルの目に涙がにじんだ。
動かないリリーシカの手を強く握る。
従順は悪徳だ。なのに私は従順だった。私がすべきは両親に従って君を閉じ込めることではなく、君を連れ出して村を焼き滅ぼすことだったのに。
・・・口を開けば物騒だな、君は。
ハッと、ルーガルが息をのんだ。僕も顔を上げた。
ほかにも、やり方はあるはずだよ。
私には思いつかない。・・・君と二人で考えれば、思いつくかもしれない。
仕方ないなあ、ルーガルは。じゃあ、二人で考えよっか。これからどうすればいいか・・・
リリーシカはルーガルの頭をなで、クスクスと笑った。
さらに二日後。
"対ジャハの魔女"作戦本部は、“ジャハの魔女被害地復興”作戦本部へと生まれ変わっていた。
というか、昨日の時点では“ジャハ復興”作戦本部だったのですが。
相変わらず本部長の座にいるマカスター少将が言う。
確かに看板には、そう書かれて訂正された跡がある。
あの二人が、建物の損傷をあっさり直してしまいましてね。魔物も早くに片付きそうだし、これなら被害を受けた場所をまとめて任せたほうがいい。
あの二人?
ジャハの魔女リリーシカと火の玉のルーガル! あの厄災姉妹ですよ。
少将が窓の外をにらむ。そこではルーガルとリリーシカが馬車の支度を待っていた。
二人はこれから、リリーシカが荒らして回った場所をめぐって旅をする。魔結晶を返したり、畑や建物を直したり、やることは多い。
リリーシカの罪はそれで許されますか?
さて、何しろ裁判をしてないのでね。本来なら判決まで罪人は閉じ込めておくべきですが、復興の手伝いができるなら、させたほうがいいというわけで。
つまり、労働のあとで追加の罰が与えられる可能性もある。
それでも復興への貢献度によっては、裁判で有利になるだろう。
ところで少将殿。まだ謝罪の言葉を受けていませんが?
・・・貴殿が魔力を持たないことについての侮辱的な発言、申し訳なかった。あの場での発言をすべて撤回します。
よいご判断です。
すごく苦々しい顔をしているのが気になるけど、これ以上粘っても関係を悪くするだけだろう。僕は少将のもとを引き上げた。
ようやく来たな、見送り! もう出発するところだったぞ。
ダグラス。あなたが二人に付き添うんだね。
その通り。こんなの左遷だろ! 中央を離れてあちこち回る上、どれだけ時間がかかるかもわからないなんて。きっとおまえらに負けたせいだ!
そうかなあ。リリーシカのお目付け役なら、魔法での戦いに慣れた優秀な人をつけると思うけど。
えっ。
ベシワク。
ルーガルがダグラスを押しのけて現れた。
君は島に帰るのか。
リリーシカから〈勇者の魂〉を返してもらったからね。早く島に届けたい。
そうか。
でも本当は、君たちについていきたい気持ちもあるんだ。ルーガル・・・
なんだ?
僕は君が好きだ。君が少しでも僕を想ってくれるなら、旅を終えたあと島に会いに来てほしい。
ああー、戦闘用人形1号が・・・
そういうのは二人きりのときに話したらどうだ!?
でもヤムカ、もうタイミングがないでしょ。
この二日間でいくらでもあっただろ!
ヤムカはコペと一緒に、アトリエへ帰る馬車の支度をしているところだった。少し離れた場所にいるけど、こちらの話が聞こえたらしい。
タイミングは・・・確かにあったけど。なかなか言えなかったんだから仕方ないだろ。
ベシワク。君の気持ちはあきらめたほうが身のためだ。
振られた・・・
私も君が好きだが、私が誰かを愛すると悲劇が起こる。
えっ。
リリーシカの件でわかった。私は自分以外の他人を愛することに向いていない。自分と相手の違いが悲しくて、相手を壊してしまう。
えっと、つまり君は・・・壊してしまいそうなくらい僕が好き?
ああ、そうだな。
2号と3号が!!
両想いかよ! 心配して損した・・・。一旦部屋戻ろうぜ、コペ。
あたしはもう少し見守ってたいけど。
サンセイ! サンセイ!
オレの連れ、デバガメしかいねえ。
どうしよう。立ってられないくらい嬉しい。
僕はめまいを抑えて、顔を上げた。
ルーガル。僕は君の、僕とは違うところが好きだ。違うことは悲しいことでも寂しいことでもない。君の旅が終わったら、僕から会いに行くよ。
そうか。うん、楽しみに待っている。
ルーガルが手を差し出した。
僕たちは別れの握手をして、でも、再会を約束した。
THE END