僕は剣を下向きに構えて飛び降り、リリーシカの首を床に串刺しにした。
同時に、屋根の上に隠れていたグージィが真上から叫ぶ。
リリーシカぁっ!
僕は剣を下向きに構えて飛び降り、リリーシカの首を床に串刺しにした。
同時に、屋根の上に隠れていたグージィが真上から叫ぶ。
ウゴかないでくださいねっ、コウセンジュウをクらいたくなければ!
グージィの抱えた銃から光が放たれた。
光線が、僕とリリーシカの周りにぐるりと円を描く。床がくり抜かれ、二人はひとつ下の階に落ちた。
下の階では、ヤムカとコペが待ち構えている。
僕がサッと飛びのくと、二人はほぼ同時に呪文を唱えた。
降結水〈アクアプルヴィア〉
結界〈フラグマ〉!
次の瞬間、そこには水の牢があった。
コペが張った結界は狭く、一人の全身がどうにか入る程度だ。ヤムカの作った水はリリーシカと一緒にその中に閉じ込められている。リリーシカの口から空気がこぼれた。
ゴボ・・・っ!
共犯しといて何だが、ベシワク。姉の目の前で妹の首を刺すのどうかと思うぜ。
でも、リリーシカはコアを壊さなきゃ死なないし。だいたい戦いの最中にそんなこと言っていられないよ。
ああ、剣を持ったら人格が変わるタイプ?
そんなことはないけど。
この水牢も。動きを封じるってこういうことかよ。魔法師の口をふさぎたきゃ空気を奪えばいいってか。思いついてもやるか普通?
ほかに方法があるなら教えてほしいんだけど?
結界の中に青い光が見える。回復魔法の光だよね。
コペの言う通り、光はリリーシカの顔周りに集まっていた。
呼吸できないリリーシカを、精霊たちが死から遠ざけようとしているらしい。
つまり、溺れてるってことだろ。魔力が尽きる前に解放しないと死ぬぜ。
ルーガル!
呼んだか。
天井の穴からルーガルが飛び降りてきた。
僕たちを見て、首をかしげる。
結界を超えれば追ってこられないと思っていた。何をしに来た?
君を止めに来た。君一人が死んで終わりなんて、許さない!
許しがあろうがなかろうが、そんなつもりはなかったが。
じゃあなんで倒れたままだったんだ?
リリーシカを殺そうとしたら、体が動かなくなったんだ。精神干渉系の魔法は対策しておいたのだが。
なるほど、殺そうとしたけど殺せなかったと。・・・殺したくないからじゃない?
なぜ体が固まったのか、謎を解明して次こそは殺してみせる!
気持ちの問題というのはあって、やりたい仕事ならさっさと終わるけど、やりたくない仕事は実力があっても動きがのろのろしてしまうことがある。
自覚がなくてもそうなんだな。
おまえはとりあえず愛を辞書で引け! 罪悪感で馬鹿な考えに走ったと思ってたらマジでただの馬鹿だったって、オレはどうリアクションすりゃいいんだよ!
馬鹿馬鹿と。君は産声も罵倒だったのだろうし、断末魔も罵倒になることだろう。近いうちに聞かせてくれ。
おいベシワク、こいつの相手してたらあっという間に時間切れだ。リリーシカを殺さずにケリをつけられるんだろ、策を言え!
ルーガル。君の魔結晶を、リリーシカにゆずり渡せないか?
えっ、と全員が息をのんだ。
ルーガルがまなざしを険しくした。
それは私が死ぬということだ。
魔結晶は、君が生きてきた中で自然に生まれたものだ。初めはなかったものだし、体の一部というわけでもない。
だが取り出すには体を切り裂かなければならない。魔結晶を取り出せるほどの深手では、回復魔法も間に合うかどうか。
でも、転移魔法なら?
魔結晶は心臓のそばだ。下手をしたら半分抉り取った心臓を添えてリリーシカに渡すことになる。正確に魔結晶のみを転移させるのは難しい。
リリーシカなら。
なんだって?
リリーシカは転移魔法をたくさん使ってただろ。繰り返せば熟達するのは当然だ。この町に、逃げ遅れた人が一人もいないことに気づいたか?
いや、見てなかった。
リリーシカが町の人たちを一度に追い出したんだ。僕にはよくわからないけど、それってすごいことだろ?
・・・うん。すごいことだ。
おい、もう無理だ! コペ、結界を解け。これ以上は死ぬ!
わっ、わかった。解放しちゃうね!!
・・・げほっ、ごほっ!
コペが結界を解いた。リリーシカが水と一緒に床に崩れ落ちる。
リリーシカ。
僕はリリーシカの前に膝をついて、目線を合わせた。
ルーガルの魔結晶がほしいんだろ。転移魔法を使って、魔結晶だけを取り出せないか?
できるならとっくにそうしてる。ルーガルがちょこまか逃げ回るのに、魔結晶だけをピンポイントで狙えるわけないでしょ。
逃げない。
ルーガルが進み出た。
リリーシカ。君を愛している。本当は君を殺したくない。君に、生きていてほしい。
だからって、私の前で大人しくじっとしてるわけ? 私は君のせいで半魔物になったの。魔結晶を取り出すふりして、首を吹き飛ばすかもしれないよ。
君に任せる。
・・・・・・。
リリーシカがルーガルを抱き寄せた。
歌のように、塔の一室に、呪文を唱える声が流れた。
荒らかなる者、くるめく者よ、
勇気と力もたらす者よ、
なんじは万化の色彩だ、
定点を無とす獣たちだ。
この空はなんじ、始まりは。
命はなんじ、その終わりは。
空と我が身を結ぶなんじは
すべてに遍在するものなりや。
今やなんじに消ゆる我が身は
まさになんじに現わる我が身だ。
――転移〈シャンジマ〉
二人の間に光が生じた。
そしてその光が収まったとき、
ルーガル!
ルーガルとリリーシカは、二人とも意識を失い床に崩れた。