イザベラはシオンとの楽屋でのことを
ゆっくり話しはじめた。
イザベラはシオンとの楽屋でのことを
ゆっくり話しはじめた。
その日、楽屋ではシオンが憔悴した様子で
鏡を見つめていた。
疲れた目には、不安と恐怖の色が浮かんでいる。
シオン、少しでも食べないとダメよ。今日は大事なイベントなんだから、力が出ないわよ
…うん
だが、イザベラはシオンの憔悴ぶりに
胸の奥がざわつくのを感じていた
最近のストーカーのことも、
そのことで悩んでいるのもすべて知っている。
ふと視線を下ろすと、自分が持っている
羽根の入った封筒が目に入る。
少し迷ったが、それを弁当袋の中にそっと入れた。
ちゃんと食べるのよ
そう言い残して、楽屋を後にした。
イザベラが出て行った後、
シオンは弁当の袋を開けた。
その中には見慣れない封筒が入っている。
なんだろう?
不審に思いながら封筒を開くと
中から白い羽が数枚、ひらりと落ちた。
いや!!
シオンは驚きの声を上げ、
封筒と弁当を手で払いのけた。
その拍子に弁当箱は床に転がり
封筒も潰れてしまった
どうして羽が・・・・
不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら
シオンはその場で身を震わせていた
それが
彼女の最後の食事の機会を
失わせることになろうとは
誰も知る由もなかった。
イザベラは肩を落とし、ジョセフに
懇願するような目で訴えた。
羽の入った封筒を入れただけ!
信じて。私はシオンを殺してはいないの!
シオンが亡くなった時間は他の
メンバーのメイクをしていたのよ
シオンに嫌がらせしてたって噂
やっぱり本当だったんだな。
ストーカーもイザベラの仕業じゃないのか?
ストーカーは違うわ!
…少し困らせたかっただけ
その『少し』が、シオンをどれだけ追い詰めていたか、考えたことはあるのか?
私はただ、サリーにセンターを
任せたかったのよ。あの子は本当に誰よりも努力してきたわ。
歌もダンスも、どれを取っても
メンバーの中で一番だった。
特に運動神経なんて驚異的で、
2階から飛び降りても平気なくらいなのよ
に、2階から?
そうよ、アクションスターに
だってなれるんだから!
でもな、完璧すぎるアイドルってのは逆に魅力が薄いんだよ。
シオンみたいにちょっと不器用で抜けたところがある方が、ファンにとってはかわいく見えるんだ。
イザベラは一瞬言葉を失った。
ジョセフの言葉が胸に突き刺さる。
自分がしてきたことの重さが
急に押し寄せてきたようだった。
唇を噛み、必死に感情を抑えようとする。
私が間違ってたのは認めるわ
でも、サリーの努力が報われないのを見るのが耐えられなかったのよ……。
イザベラは視線を落とし、両手を強く握りしめた。
…後悔してる。今さら遅いのはわかってるけど、本当に…後悔してるの
イザベラの目から後悔の涙がぽろぽろ落ちた
うっ・・・うっ・・
まさかシオンが殺さるなんて
思ってもみなかった・・・
・・・
ジョセフは少し黙り込み、深く息をついてから
まるで何か悟ったように言葉を紡いだ。
後悔は、まるで腐った魚だ。
ずっと持ち続けてると臭くなる。でも捨てれば海に戻るんだ
うっ・・うっ・・
え?
つまりな
過去は海に行って
捨てろってことさ!
イザベラは小さくため息をつきながらも、
少しだけ緊張がほぐれたように微笑んだ。
う、うん。ありがと。
(後悔と航海をかけたのかしら?)
これからも、あのグループを支えてやってくれ。サリーも
他のメンバーもみんな、あんたを必要としてるんだ
ジョセフさん・・・わかったわ
ジョセフはその場を後にした。
その手にはしっかり
メモリーカードが握られている
変なネコ
あ!そうだ
イザベラは去っていくジョセフの背中に
思い出したように声をかけた。
ジョセフさんちょっとまって!
どうした?
私が楽屋でお弁当に封筒を入れた時のことなんだけど…
シオンのお弁当、他のメンバーと違ってたの
違うお弁当?
ええ。紙袋に入ったサンドイッチと、お弁当があったわ
サンドイッチはスタッフが用意したものだったし。
その時に羽をどちらに入れるか迷ったのを思い出したの
シオンがそんなに
いっぱい食べるってのか?
本番前にそんなに食べるわけないでしょ。
そうか…なら弁当を持っていったルーカスに話を聞いてみるか。
私の思い過ごしならいいんだけど…何か気になって
そんなに重要な話じゃなさそうだけどな。まぁ、行ってみるか
ジョセフは撤収作業で賑わう
会場に足を踏み入れ、ルーカスを探した。
えーっと、ルーカス!
大きな声で呼びかけても反応はない。
ジョセフは作業中のスタッフに近づき
声をかけた。
なぁ、新人のルーカスってどこにいる?
ルーカス?
おーい、誰かルーカスって名前の猫、知ってるかー?
しかし、返事はどこからも返ってこない。
シオンに弁当を届けたっていう
ルーカスだよ
ああ、弁当というか…
サンドイッチなら、午前中に全員の楽屋に届けるように手配してたけどな。
ジョセフの胸に嫌な予感が広がった。
まさか…ルーカスは、この大勢のスタッフに紛れ込んでシオンの
楽屋に入ったのか?
し、しまった!!
ジョセフは舌打ちしながら会場中を
くまなく探し始めた。
まずいぞ、もしルーカスが犯猫だったら、非常にまずい!
つづく