イザベラはシオンとの楽屋でのことを
ゆっくり話しはじめた。

その日、楽屋ではシオンが憔悴した様子で
鏡を見つめていた。

疲れた目には、不安と恐怖の色が浮かんでいる。


イザベラ

シオン、少しでも食べないとダメよ。今日は大事なイベントなんだから、力が出ないわよ

シオン

…うん

だが、イザベラはシオンの憔悴ぶりに
胸の奥がざわつくのを感じていた

最近のストーカーのことも、
そのことで悩んでいるのもすべて知っている。

ふと視線を下ろすと、自分が持っている
羽根の入った封筒が目に入る。

少し迷ったが、それを弁当袋の中にそっと入れた。

イザベラ

ちゃんと食べるのよ

そう言い残して、楽屋を後にした。

イザベラが出て行った後、
シオンは弁当の袋を開けた。

その中には見慣れない封筒が入っている。

シオン

なんだろう?

不審に思いながら封筒を開くと

中から白い羽が数枚、ひらりと落ちた。

シオン

いや!!



シオンは驚きの声を上げ、
封筒と弁当を手で払いのけた。

その拍子に弁当箱は床に転がり
封筒も潰れてしまった

シオン

どうして羽が・・・・



不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら
シオンはその場で身を震わせていた

それが
彼女の最後の食事の機会を
失わせることになろうとは
誰も知る由もなかった。



イザベラは肩を落とし、ジョセフに
懇願するような目で訴えた。


イザベラ

羽の入った封筒を入れただけ!

イザベラ

信じて。私はシオンを殺してはいないの!

イザベラ

シオンが亡くなった時間は他の
メンバーのメイクをしていたのよ

ジョセフ

シオンに嫌がらせしてたって噂
やっぱり本当だったんだな。
ストーカーもイザベラの仕業じゃないのか?

イザベラ

ストーカーは違うわ!
…少し困らせたかっただけ

ジョセフ

その『少し』が、シオンをどれだけ追い詰めていたか、考えたことはあるのか?

イザベラ

私はただ、サリーにセンターを
任せたかったのよ。あの子は本当に誰よりも努力してきたわ。

イザベラ

歌もダンスも、どれを取っても
メンバーの中で一番だった。
特に運動神経なんて驚異的で、
2階から飛び降りても平気なくらいなのよ

ジョセフ

に、2階から?

イザベラ

そうよ、アクションスターに
だってなれるんだから!

ジョセフ

でもな、完璧すぎるアイドルってのは逆に魅力が薄いんだよ。

ジョセフ

シオンみたいにちょっと不器用で抜けたところがある方が、ファンにとってはかわいく見えるんだ。

イザベラは一瞬言葉を失った。

ジョセフの言葉が胸に突き刺さる。

自分がしてきたことの重さが
急に押し寄せてきたようだった。

唇を噛み、必死に感情を抑えようとする。

イザベラ

私が間違ってたのは認めるわ
でも、サリーの努力が報われないのを見るのが耐えられなかったのよ……。

イザベラは視線を落とし、両手を強く握りしめた。

イザベラ

…後悔してる。今さら遅いのはわかってるけど、本当に…後悔してるの

イザベラの目から後悔の涙がぽろぽろ落ちた

イザベラ

うっ・・・うっ・・
まさかシオンが殺さるなんて
思ってもみなかった・・・

ジョセフ

・・・

ジョセフは少し黙り込み、深く息をついてから
まるで何か悟ったように言葉を紡いだ。

ジョセフ

後悔は、まるで腐った魚だ。
ずっと持ち続けてると臭くなる。でも捨てれば海に戻るんだ

イザベラ

うっ・・うっ・・

イザベラ

え?

ジョセフ

つまりな
過去は海に行って
捨てろってことさ!

イザベラは小さくため息をつきながらも、
少しだけ緊張がほぐれたように微笑んだ。

イザベラ

う、うん。ありがと。
(後悔と航海をかけたのかしら?)

ジョセフ

これからも、あのグループを支えてやってくれ。サリーも
他のメンバーもみんな、あんたを必要としてるんだ

イザベラ

ジョセフさん・・・わかったわ

ジョセフはその場を後にした。

その手にはしっかり
メモリーカードが握られている

イザベラ

変なネコ

イザベラ

あ!そうだ

イザベラは去っていくジョセフの背中に
思い出したように声をかけた。

イザベラ

ジョセフさんちょっとまって!

ジョセフ

どうした?

イザベラ

私が楽屋でお弁当に封筒を入れた時のことなんだけど…
シオンのお弁当、他のメンバーと違ってたの

ジョセフ

違うお弁当?

イザベラ

ええ。紙袋に入ったサンドイッチと、お弁当があったわ

サンドイッチはスタッフが用意したものだったし。

その時に羽をどちらに入れるか迷ったのを思い出したの

ジョセフ

シオンがそんなに
いっぱい食べるってのか?

イザベラ

本番前にそんなに食べるわけないでしょ。

ジョセフ

そうか…なら弁当を持っていったルーカスに話を聞いてみるか。

イザベラ

私の思い過ごしならいいんだけど…何か気になって

ジョセフ

そんなに重要な話じゃなさそうだけどな。まぁ、行ってみるか

ジョセフは撤収作業で賑わう
会場に足を踏み入れ、ルーカスを探した。

えーっと、ルーカス!

大きな声で呼びかけても反応はない。

ジョセフは作業中のスタッフに近づき
声をかけた。

ジョセフ

なぁ、新人のルーカスってどこにいる?

ルーカス?

おーい、誰かルーカスって名前の猫、知ってるかー?

しかし、返事はどこからも返ってこない。

シオンに弁当を届けたっていう
ルーカスだよ

ああ、弁当というか…
サンドイッチなら、午前中に全員の楽屋に届けるように手配してたけどな。

ジョセフの胸に嫌な予感が広がった。

ジョセフ

まさか…ルーカスは、この大勢のスタッフに紛れ込んでシオンの
楽屋に入ったのか?

し、しまった!!

ジョセフは舌打ちしながら会場中を
くまなく探し始めた。

まずいぞ、もしルーカスが犯猫だったら、非常にまずい!

つづく