コペ

ルーガルが、二人?

ヤムカ

あいつがうわさのリリーシカかよ。どう見てもルーガルの関係者じゃねえか。あとで説明してもらうからな。

コペ

なんであとで?

ヤムカ

馬鹿どもの喧嘩で火事が起きてる。消火活動しなきゃだろ。コペ、水魔法は使えるか?

コペ

うん!

ヤムカ

それが済んだら、ひとまず逃げるぞ。言わなくてもわかるだろうが、ここにいたら死ぬ。

ベシワク

コペ、ヤムカ!

僕は地面から這いだすと、二人に駆け寄った。

ヤムカ

おう、無事か?

コペ

ベシワク、大丈夫? 膝から下が真っ黒だね。

ベシワク

色々あって・・・あれは!?

夜空に黒い光の渦が巻いていた。
その向こうに、リリーシカの姿。いつの間にか空に浮かんでいる。

リリーシカ

・・・・・・。

黒い渦が、僕らめがけて降ってくる。
しかし。

ルーガル

・・・・・・。

渦と僕らとの間に魔法陣が現れた。
ルーガルが張った防御の魔法陣が、森一帯を覆う。
黒い渦は魔法陣にぶつかると、弾かれて消え去った。

コペ

ね、今の黒い渦って・・・

ヤムカ

殺竜巻・・・史上最恐の全範囲攻撃。

コペ

やっぱりー!?

ヤムカ

なんで嬉しそうなんだよ、今オレら殺されかけたんだぞ!

ヤムカ

史上最恐を二連続でやるな!

コペ

それ受け止めてるルーガルの防御もすごいけどねー。

ヤムカ

しかも、なんでノーモーションなんだよ! 呪文はどうした!

コペ

契約魔法師同士の戦いって、ひたすら無言の打ち合いになるんだなあ。

ルーガル

荒らかなる者、くるめく者よ、
勇気と力もたらす者よ、

コペ

と思ったら、呪文。

ルーガル

なんじは万化の色彩だ、
定点を無とす獣たちだ。

ヤムカ

何の呪文だ? 聞いたことねえぞ。

コペ

あたしもない・・・

ベシワク

もしかして、それが転移魔法!?

ルーガル

この空はなんじ、始まりは。
命はなんじ、その終わりは。
空と我が身を結ぶなんじは
すべてに遍在するものなりや。
今やなんじに消ゆる我が身は
まさになんじに現わる我が身だ。

ルーガルが僕らに両手を差し向けた。
何も言われなくても、手をつなぐのだとわかった。僕らは輪になった。

ルーガル

――転移〈シャンジマ〉

次の瞬間――僕らは山の上にいた。

ヤムカ

ここは・・・盗賊のアジトがあった洞窟の外か。

ルーガル

あのままではらちが明かなかった。いったん退避だ。

ベシワク

ルーガル。

ルーガル

・・・なんだ?

ベシワク

さっきのはどういうこと? リリーシカが、君を姉さんと。

コペ

えっ? ルーガルにきょうだいが?

ルーガル

・・・リリーシカは、私の双子の妹だ。

ベシワク

っ!

コペ

でも聞いたことないよ。〈火の玉のルーガル〉に妹がいるなんて・・・

ルーガル

隠されていたんだ。村の外どころか、村人も私が一人娘だと思っている。私は生まれつき魔力が高く、リリーシカには生まれつき魔力がなかった。

ベシワク

えっ!

僕は息をのんだ。
リリーシカの正体も、それをルーガルが黙っていたこともショックだった。でも、それよりもリリーシカの過去に驚いて。

ルーガル

魔力なしが生まれたことを、両親はよく思わなかったんだ。

ベシワク

でもひどいよ。魔力がなかったからって、それだけで、生まれたことを隠すなんて。

ヤムカ

・・・生まれた日のうちに殺されなかっただけマシだな。

ベシワク

ヤムカ、なんてことを!

ヤムカ

島の人間はお気楽でいいな。大陸じゃ、魔力量が少ないだけでも肩身が狭い。本人だけの問題じゃない。魔力なしを生んだ家自体、冷たい目で見られる。

コペ

・・・・・・。

ルーガル

リリーシカは、屋敷の裏の塔に隠されて育った。

ベシワク

そんな・・・

ルーガル

でも私は塔で妹と遊んだことを村人に一切隠さなかったので、イマジナリーフレンドがいると思われていた。

ヤムカ

親の胃に穴開ける掘削機持って生まれたのか?

ルーガル

高い魔力を持って生まれたが、掘削機は持ってない。

ベシワク

・・・でも、今のリリーシカは魔力なしには見えない。強力な魔法を連続で使ってるじゃないか。

ルーガル

私の魔力を分けたからだ。

ヤムカ

そんな方法ねえよ!

ルーガル

なかった。だから作った。私が転移魔法を開発したのは、リリーシカに魔力を移すためだ。

コペ

すごい! そんなことができるなら、魔力がなくて困る人はいなくなるよ。

ヤムカ

んな、あっさりできることじゃねえんだよ。化け物が・・・

ルーガル

あいにくと、人間だ。私もリリーシカも・・・

ルーガル

いや、人間だった・・・。リリーシカは私の魔力を受け止めきれず、体が消し飛んでしまったんだ。

ベシワク

な・・・っ!

体が消し飛んで、生きていられる人はいないだろう。
じゃあ、今のリリーシカは・・・?

ルーガル

注いだ魔力が無駄になることを、精霊たちは好まなかった。燃え残った心臓を核に魔力を集め、リリーシカをよみがえらせたんだ。

ベシワク

今のリリーシカは、核を中心とした魔力の塊・・・

ヤムカ

じゃああいつは、人の姿をしてるが魔物なのか。

ルーガル

半分魔物、というべきだろう。人格は人だった頃のままだ。その不安定な存在ゆえ、強力な魔力の塊を取り込んで安定しようとしている。

ベシワク

魔結晶を集めるのは、そのためか。

ルーガル

ベシワクの村が襲われたのも、元をたどれば私が悪い。だからベシワク、君は私を恨むべきだ。黙っていて、悪かった。

ベシワク

リリーシカにも笑われた。あいつを憎んでおいて、君を・・・そうしないのはおかしいって。でも待ってよ、そう簡単に気持ちを切り替えられない。

ベシワク

ねえ、妹に魔力を転移させたのはどうして? 魔力なしじゃかわいそうだと思ったのか?

ルーガル

かわいそう? 違う・・・私は、寂しかったんだ。

ルーガル

あいつが私と違うことが、私と一緒に空を飛んでくれないことが、寂しかったんだ。

リリーシカ

はあ!?

突然、声が割って入った。
そびえる木々より高く、浮かぶ影。

リリーシカ

せめて私のためであれよ、このエゴイスト!!

叫ぶと同時に攻撃が、僕らめがけて降ってくる!
しかし、ルーガルの防御の魔法陣が、攻撃を消し飛ばす。

ルーガル

今度はこちらから行くぞ。

リリーシカ

――ッ!

ルーガルの火炎が、リリーシカを吹き飛ばし――
えっ、妹!!! 妹だろ!!! いいの!?!?

――く・・・っ

声はする。殺してはいないようで、ホッとする。
けど、夜空にリリーシカの姿はない。

いや、何かが浮かんでいる。
赤い何か――あれは――心臓・・・?

ルーガル

リリーシカのコアだ。半魔物のリリーシカは、あれを壊さない限り死なない。

リリーシカ

・・・ふん。今日はここまでだね。

すぐに、核を中心に体が再生した。
しかしリリーシカは、それ以上戦うことなく、姿を消した。

ベシワク

消えた・・・転移魔法か!?

ルーガル

いや、透過だろう。姿を見えなくしただけだ。どこかに隠れて・・・いや。

ルーガル

気配が消えた。逃げたな。

ヤムカ

逃げた? 本当に?

ルーガル

殺竜巻は威力が大きい分、必要な魔力も多い。契約魔法であればなおさら、通常以上に魔力を要求される。もう弾切れだろう。

ヤムカ

いかに魔力が多くても、無限に契約するほど化け物じゃないってことか。あー、寿命縮んだぜ。

ルーガル

しかしあいつ、何しに来たんだ。

ヤムカ

ベシワクにちょっかいかけに来たんじゃねえのか。

ルーガル

いや。ベシワクを連れ出すことに気づかせたのはわざとだ。もっとコソコソできるのに、飛行魔法で窓から出ていくなんて派手なことを。

ベシワク

確かに。

ルーガル

私が狙いか? その割にはあっさり帰ったな・・・

ベシワク

話す前にいったん帰ろうか。山を下りるのは時間がかかる。急いで帰らなきゃ、だってあの家には・・・

僕が連れ出されたと知って、ルーガルは慌てて出てきた。
コペとヤムカもそれに続いた。

今あの家は無人だ。

ベシワク

リリーシカの狙いがわかった。陽動だ!

僕の言葉とほぼ同時に。

山の下で爆発が起こった。
火の手が夜空を赤く染めた。