僕は地面から這いだすと、二人に駆け寄った。
ルーガルが、二人?
あいつがうわさのリリーシカかよ。どう見てもルーガルの関係者じゃねえか。あとで説明してもらうからな。
なんであとで?
馬鹿どもの喧嘩で火事が起きてる。消火活動しなきゃだろ。コペ、水魔法は使えるか?
うん!
それが済んだら、ひとまず逃げるぞ。言わなくてもわかるだろうが、ここにいたら死ぬ。
コペ、ヤムカ!
僕は地面から這いだすと、二人に駆け寄った。
おう、無事か?
ベシワク、大丈夫? 膝から下が真っ黒だね。
色々あって・・・あれは!?
夜空に黒い光の渦が巻いていた。
その向こうに、リリーシカの姿。いつの間にか空に浮かんでいる。
・・・・・・。
黒い渦が、僕らめがけて降ってくる。
しかし。
・・・・・・。
渦と僕らとの間に魔法陣が現れた。
ルーガルが張った防御の魔法陣が、森一帯を覆う。
黒い渦は魔法陣にぶつかると、弾かれて消え去った。
ね、今の黒い渦って・・・
殺竜巻・・・史上最恐の全範囲攻撃。
やっぱりー!?
なんで嬉しそうなんだよ、今オレら殺されかけたんだぞ!
史上最恐を二連続でやるな!
それ受け止めてるルーガルの防御もすごいけどねー。
しかも、なんでノーモーションなんだよ! 呪文はどうした!
契約魔法師同士の戦いって、ひたすら無言の打ち合いになるんだなあ。
荒らかなる者、くるめく者よ、
勇気と力もたらす者よ、
と思ったら、呪文。
なんじは万化の色彩だ、
定点を無とす獣たちだ。
何の呪文だ? 聞いたことねえぞ。
あたしもない・・・
もしかして、それが転移魔法!?
この空はなんじ、始まりは。
命はなんじ、その終わりは。
空と我が身を結ぶなんじは
すべてに遍在するものなりや。
今やなんじに消ゆる我が身は
まさになんじに現わる我が身だ。
ルーガルが僕らに両手を差し向けた。
何も言われなくても、手をつなぐのだとわかった。僕らは輪になった。
――転移〈シャンジマ〉
次の瞬間――僕らは山の上にいた。
ここは・・・盗賊のアジトがあった洞窟の外か。
あのままではらちが明かなかった。いったん退避だ。
ルーガル。
・・・なんだ?
さっきのはどういうこと? リリーシカが、君を姉さんと。
えっ? ルーガルにきょうだいが?
・・・リリーシカは、私の双子の妹だ。
っ!
でも聞いたことないよ。〈火の玉のルーガル〉に妹がいるなんて・・・
隠されていたんだ。村の外どころか、村人も私が一人娘だと思っている。私は生まれつき魔力が高く、リリーシカには生まれつき魔力がなかった。
えっ!
僕は息をのんだ。
リリーシカの正体も、それをルーガルが黙っていたこともショックだった。でも、それよりもリリーシカの過去に驚いて。
魔力なしが生まれたことを、両親はよく思わなかったんだ。
でもひどいよ。魔力がなかったからって、それだけで、生まれたことを隠すなんて。
・・・生まれた日のうちに殺されなかっただけマシだな。
ヤムカ、なんてことを!
島の人間はお気楽でいいな。大陸じゃ、魔力量が少ないだけでも肩身が狭い。本人だけの問題じゃない。魔力なしを生んだ家自体、冷たい目で見られる。
・・・・・・。
リリーシカは、屋敷の裏の塔に隠されて育った。
そんな・・・
でも私は塔で妹と遊んだことを村人に一切隠さなかったので、イマジナリーフレンドがいると思われていた。
親の胃に穴開ける掘削機持って生まれたのか?
高い魔力を持って生まれたが、掘削機は持ってない。
・・・でも、今のリリーシカは魔力なしには見えない。強力な魔法を連続で使ってるじゃないか。
私の魔力を分けたからだ。
そんな方法ねえよ!
なかった。だから作った。私が転移魔法を開発したのは、リリーシカに魔力を移すためだ。
すごい! そんなことができるなら、魔力がなくて困る人はいなくなるよ。
んな、あっさりできることじゃねえんだよ。化け物が・・・
あいにくと、人間だ。私もリリーシカも・・・
いや、人間だった・・・。リリーシカは私の魔力を受け止めきれず、体が消し飛んでしまったんだ。
な・・・っ!
体が消し飛んで、生きていられる人はいないだろう。
じゃあ、今のリリーシカは・・・?
注いだ魔力が無駄になることを、精霊たちは好まなかった。燃え残った心臓を核に魔力を集め、リリーシカをよみがえらせたんだ。
今のリリーシカは、核を中心とした魔力の塊・・・
じゃああいつは、人の姿をしてるが魔物なのか。
半分魔物、というべきだろう。人格は人だった頃のままだ。その不安定な存在ゆえ、強力な魔力の塊を取り込んで安定しようとしている。
魔結晶を集めるのは、そのためか。
ベシワクの村が襲われたのも、元をたどれば私が悪い。だからベシワク、君は私を恨むべきだ。黙っていて、悪かった。
リリーシカにも笑われた。あいつを憎んでおいて、君を・・・そうしないのはおかしいって。でも待ってよ、そう簡単に気持ちを切り替えられない。
ねえ、妹に魔力を転移させたのはどうして? 魔力なしじゃかわいそうだと思ったのか?
かわいそう? 違う・・・私は、寂しかったんだ。
あいつが私と違うことが、私と一緒に空を飛んでくれないことが、寂しかったんだ。
はあ!?
突然、声が割って入った。
そびえる木々より高く、浮かぶ影。
せめて私のためであれよ、このエゴイスト!!
叫ぶと同時に攻撃が、僕らめがけて降ってくる!
しかし、ルーガルの防御の魔法陣が、攻撃を消し飛ばす。
今度はこちらから行くぞ。
――ッ!
ルーガルの火炎が、リリーシカを吹き飛ばし――
えっ、妹!!! 妹だろ!!! いいの!?!?
――く・・・っ
声はする。殺してはいないようで、ホッとする。
けど、夜空にリリーシカの姿はない。
いや、何かが浮かんでいる。
赤い何か――あれは――心臓・・・?
リリーシカのコアだ。半魔物のリリーシカは、あれを壊さない限り死なない。
・・・ふん。今日はここまでだね。
すぐに、核を中心に体が再生した。
しかしリリーシカは、それ以上戦うことなく、姿を消した。
消えた・・・転移魔法か!?
いや、透過だろう。姿を見えなくしただけだ。どこかに隠れて・・・いや。
気配が消えた。逃げたな。
逃げた? 本当に?
殺竜巻は威力が大きい分、必要な魔力も多い。契約魔法であればなおさら、通常以上に魔力を要求される。もう弾切れだろう。
いかに魔力が多くても、無限に契約するほど化け物じゃないってことか。あー、寿命縮んだぜ。
しかしあいつ、何しに来たんだ。
ベシワクにちょっかいかけに来たんじゃねえのか。
いや。ベシワクを連れ出すことに気づかせたのはわざとだ。もっとコソコソできるのに、飛行魔法で窓から出ていくなんて派手なことを。
確かに。
私が狙いか? その割にはあっさり帰ったな・・・
話す前にいったん帰ろうか。山を下りるのは時間がかかる。急いで帰らなきゃ、だってあの家には・・・
僕が連れ出されたと知って、ルーガルは慌てて出てきた。
コペとヤムカもそれに続いた。
今あの家は無人だ。
リリーシカの狙いがわかった。陽動だ!
僕の言葉とほぼ同時に。
山の下で爆発が起こった。
火の手が夜空を赤く染めた。