シャルボン

くっくっく。魔結晶は、危機が迫るとその気配を増す。どこに隠されているかわからんときには、この方法が手っ取り早いのさ。

ベシワク

――って、うちの聖殿を燃やしたのもそれが理由か!? そのせいでうちのじいさま怪我したんだが!

コペの家の屋根に立ち、炎を見下ろしていたのは、赤い頭の魔物だった。

僕とルーガルは、屋根の端に下り立った。
ルーガルが飛行魔法を解き、僕を腕から下ろす。・・・抱っこは恥ずかしかったけど、急ぎなので背に腹は代えられない。

シャルボン

む――早いな。

ルーガル

いや、遅かった。家はすでに火の海だな。つまり、私が追加で燃やしても罪には問われないということだ。

ベシワク

そんなことないよ。問われるよ。

ルーガル

む、そうなのか。ではベシワク、目を閉じて耳をふさいでいてくれたまえ。

ベシワク

はいそうですかとやると思う?

シャルボン

くっくっく。そうか、おまえは炎魔法が得意なのか。残念だったな。このシャルボン、炎には少々耐性がある。

ルーガル

そうか、教えてくれてありがとう。だが、それが何だ?

ベシワク

うわあッ!?

結果的に、僕は目を閉じて耳をふさいだ。
肌が熱くて焼けそうになる。これまでにない火力だ!

ルーガル

少々の耐性なんてもの、それを上回る火力があればいい話だ。さて、私の最大火力のお味はどうだ?

あが、が・・・

魔物は消し飛んでいた。人間で言うとへそがあった辺りに、黒い塊が残っている。

ベシワク

あれがコア・・・!

僕は剣を抜いて走った。

シャルボン

がああああッ

再生しようとしていた体が、改めてチリになった。

ベシワク

これで、倒したか?

ルーガル

待て、気配がする――もう一匹いる!

下を見る。火影が揺れる裏通りに、マントをたなびかせた誰かがいる。
いや、マントじゃない!

ベシワク

それは〈仁者のもてなし〉! 返せ!!

ユヌグット

ふふふ・・・そんなに大切なものなら、ジャハまで取りに来るがいい・・・

追いかけるが、間に合わず、魔物の姿はかき消えた。

コペ

――降結水〈アクアプルヴィア〉

声と同時に、激しい雨。

ベシワク

雲はない。魔法の雨か。

ベシワク

コペ、ヤムカ!

ヤムカ

悪い、遅くなった。おまえら無事か?

コペ

ベシワク、〈仁者のもてなし〉は・・・

ベシワク

・・・ごめん。

僕は、何も言えなかった。

ルーガル

リリーシカを止めるには、殺すしかないと思う。

病院の燃え残った一室で、僕らは今後のことを話し合っていた。

ベシワク

ルーガル、それは!

ルーガル

確かにあいつは妹だ。だがあいつの暴走は、その存在の不安定さゆえ。つまり在り方そのものが原因で、解決法はない。

ルーガル

正直気は進まない。だからこれまでは目を背けてきた。だが・・・

ルーガルが僕を見る。

ルーガル

ベシワクを見ていると、私もやるべきことをやるべきだ、と思えてきたんだ。私にできることがあるなら力を尽くそう。

ベシワク

・・・だからって、君が手を下すのはあまりにも残酷だ。

ルーガル

責任は私にある。それに、私以外の誰にできる? 私ならあいつと張り合う魔力があるし、弱点も知っている。奥の手だってある。

ベシワク

奥の手?

ルーガル

次に戦う機会があったら、わざとスキを見せて、あいつの攻撃を受けたふりをする。そして左足のタップ――

ルーガルの契約魔法は五つある。

右手のフィンガースナップで透過。
左手のフィンガースナップで攻撃。
右目のウインクで飛行。
左目のウインクで防御。
そして、右足のタップで灯光。

ベシワク

でも、僕らに黙っていただけで、別の魔法を隠していた――それが奥の手か!

ルーガル

六つ目の契約魔法は、幻影魔法だ。リリーシカには、私が攻撃を受けて死んだように見える。

ヤムカ

・・・で?

ルーガル

あいつはショックを受ける。

ヤムカ

そおかなあ。

ルーガル

そのスキに攻撃! コアを破壊する。

ベシワク

・・・・・・。

ヤムカ

上手く行くわけねえだろ。

ルーガル

そんなことはない。七歳の頃、ふざけて死んだフリをしてみせたら、あいつはショックを受けておいおい泣いたものだ。

ヤムカ

今ここで姉妹のほっこりエピソードを持ち出すな。情緒おかしくなんだろうが。

ベシワク

やっぱりダメだ。君が死んだらリリーシカが悲しむと、本当に思ってるんなら・・・君の死を悲しんでくれる人を、君の手で殺すのは絶対にダメだ。

ルーガル

ほかに方法はない。

ベシワク

まだ思いつかないだけかもしれないだろ。とにかく、君一人では行かせない。リリーシカは僕の敵でもあるんだ。

コペ

はい!

コペが勢いよく手を上げた。

コペ

あたしもついて行きたいです!

ベシワク

コペ・・・でもこれは危険な旅だ。

コペ

でもあたし、ここにいたって危険だしなあ。

ベシワク

えっ。

コペ

家燃えちゃったし、ご飯は〈もてなし〉頼みだったのに持ってかれちゃったし。

ベシワク

うっ。

みんな言わないでいてくれるけど、〈もてなし〉を奪われてしまったのは僕が連れ出されたせいだよな・・・。

それも、ルーガルのふりをしたリリーシカにだまされて、というのがものすごく痛い点だ。眼鏡をかけただけの変装に引っかかるなんて・・・。

コペ

病院はいじめっ子のせいで閑古鳥だし、他で食べてこうとしても嫌がらせされるのは目に見えてる。それよりは君たちについて行きたいな。

ヤムカ

何、おまえいじめられてんの?

コペ

まあね。

ヤムカ

なんでだよ。わかった、可愛いからだろ。

コペ

は!?

ヤムカ

嫉妬ってこえーなあ。あんま気にすんなよ。

コペ

は、は、は!?

ヤムカ

オレもついてくかな。戦力は必要だろ。オレ自身はまあアレだが、アトリエ寄ってけ。いいもん貸すぜ。

ルーガル

いいものとは?

ヤムカ

戦闘用人形なんて需要がないと思ってたが、試作品が役に立ちそうで嬉しいぜ。

ルーガルとヤムカはジャハへの道順について話し始めた。
その横で、僕はコペに部屋の隅まで引きずられていった。

コペ

あのさ、あたしって可愛いの?

ベシワク

可愛いよ。

コペが悲鳴を上げてひっくり返った。