ベシワク

ルーガル!

繰り返すけど、この部屋は二階だ。
とはいえ、ルーガルは魔法師だ。

ベシワク

飛行魔法?

ルーガル

ああ。君に用があって。

ベシワク

こんな時間に?

ルーガル

内密のことだ。ほかの二人が寝るまで待ちたかった。外に出られないか? 窓から連れて降りるから。

ベシワク

抱っこは嫌だってば。

ルーガル

問題ない。

ルーガル

さやかなる者、舞う者よ、
神秘と幸運もたらす者よ、
地にある我らと戯れよ、
深きかいなに受け入れよ。
――浮遊〈エカレヴォ〉

僕の体が宙に浮かんだ。ルーガルが手をつかんでくれたので、天井にぶつかることはなかったけど。

ルーガル

浮遊魔法だ。飛行魔法と違い、推進力はない。でも私が引っ張れば飛行魔法と変わらない。来たまえ。

ルーガルが壁を蹴った。手をつないだままの僕も、一緒に窓から飛び出した。

ベシワク

夜空を泳いでるみたいだね。

ルーガル

そのたとえで行くなら川岸はあそこだ。山裾の森なら邪魔は入らない。

ベシワク

それでルーガル、話って・・・

言いかけたときだ。

トン、と僕の後ろの木に手をつくようにして、ルーガルの影がおおいかぶさった。

ベシワク

るっ、ルーガル?

金色の瞳が、じっと僕を見る。視線で穴が開きそうだ。

というか、顔が近い。

ベシワク

よ、用って何・・・?

ルーガル

? 君に会うことそれ自体だが。

ベシワク

あの、それって・・・

ルーガル

君に興味があるんだ。ほかの二人がいないところで話したかった。迷惑か?

ベシワク

その、こんなところで・・・

ルーガル

確かにここは暗いな。君の顔がよく見えない。

ルーガル

荒らかなる者、くるめる者よ、
なんじは照らす、底なき闇夜。
――魔灯光〈イグニオ〉

光が浮かぶ。眼鏡をかけた顔が映し出される。
・・・確かにルーガルの顔だ。だけど。

ベシワク

・・・ルーガルは契約魔法師だ。しかも極度の面倒くさがりだ。灯りの魔法で呪文は唱えない。

・・・そうだっけ?

ベシワク

おまえは誰だ!?

忘れるなんて酷いな、自己紹介ならしたでしょう。初めて会ったあの夜に――

僕が剣を向けると、背の高い女は、眼鏡を外して微笑んだ。

リリーシカ

私は、魔女リリーシカ!
大陸へようこそ、南洋の勇者さん?