その後も、エイトウはじいさまと議論していたけど、僕は最後まで聞けなかった。ダンダンに稽古場まで引きずられて行ったからだ。
リリーシカの魔の手が、まだ影も形もない、平和な昼下がり。
う、うわあ! 虫が降ってきた!!
あはははは!
エイトウ! またおまえのイタズラか!
酷いなあ、僕は何もしてないよ。ただ枝の先に樹液を塗って、その付け根を削って落ちやすくしただけだ。
知恵と労力の無駄遣い! もっと世のためになることをしろよ!
世の中は分担で回ってる。兄さまは世のために動き、僕はそれ以外で動く。
詭弁!!!
だいたい、こんな細工に引っかかる方がマヌケだろ。それで次期首長だなんて笑わせる。ねえじいさま、もうろくしたって思われないためにも、後継ぎのこと考え直したら?
エイトウ兄さん! 首長の決定に口を出すのはよくない。それに、こういうのは年功序列だろう。
ダンダン・・・!
しかしベシワク兄さんが僕より弱いことには納得いかない。兄ならば弟よりも強いはず。きっと兄さんはまだ力を秘めている。というわけで手合わせしよう。
だっ、ダンダン~! 剣はおまえのが強いんだってば! 勝負は昨日ので十分だよ!!
今日こそ覚醒すると思う。こう、バーッと力がみなぎる感じで。
すごく曖昧・・・!
アッハッハッハッハ! かわいい孫どもが三羽、にぎやかにやっとるわい。
じいさまぁ、笑ってないで僕の意見を聞いてよ。
いや笑ってないで助けてほしいです!!
たしかにエイトウ、おまえは頭が回るがね、ベシワクにもダンダンにも、おまえとは違う才能があるのだよ。わからないようではまだまだだな。
才能・・・?
ベシワクを跡継ぎに据えたのは、ベシワクの才能が最も首長に向くからだ。
てっきり、いちばん年上だからだと・・・
うん。頭固い連中にはそう説明した。
じいさま、僕に話したときも年齢順だと!
だから、頭固い奴にはそう説明したんだって。
???
国は人、人がいなければ国は成らん。そして人は、結局のところ、最も愛情深い者のもとに集まる。
というわけでエイトウ、おまえがベシワクよりも人の気持ちを考えられる人間になったら、後継ぎにしてやらんでもないぞ。
それ、人の気持ちを考える奴は跡継ぎの座を奪おうとしないから、永遠に成立しない話じゃないの?
バレたか。
その後も、エイトウはじいさまと議論していたけど、僕は最後まで聞けなかった。ダンダンに稽古場まで引きずられて行ったからだ。
リリーシカの魔の手が、まだ影も形もない、平和な昼下がり。
首長の跡継ぎに指名されて、もう二年か・・・
コペの家は、二階に客室が三つあった。
入院患者は誰もいないので、一人一部屋貸してもらえた。
くたびれているはずなのに、目が冴えて眠れない。
昔のことばかり思い出してしまう。
僕が愛情深いって、じいさまは言ってくれたけど、本当は、そんなことないと思うんだよな・・・
弟たちはかわいい。だけど、思うところもある。
そんな内心を隠しながら、ずっと優しい人間でいなければならないのは、正直に言うと重荷だ。
でも、じいさまの期待を裏切れないし・・・。それに、人に優しく振舞うのは当たり前に必要なことだしな。
自分の頭で考えると、結局その結論になる。
だからルーガルの言葉は、僕が思っちゃいけないことを代わりに言ってくれたみたいだった。
役目を押しつけてくる奴らに、従順さで応える必要はない。砂をかけてやれ。
それでも・・・ルーガルと僕とじゃ考え方が違うな。
押しつけられたわけじゃない・・・困っている人がいるとどうしても体が動くのは、後継ぎの重圧だけじゃなくて、結局僕の性格なんだろうな。
それに気づけたという意味でも、ルーガルの言葉は宝物になるだろう。
僕は、またため息をついて、ベッドに転がった。
天井を見上げているのに、脳裏にルーガルの顔が浮かぶ。
島に帰れば会えなくなる。
寂しいなんて思わない方がいいだろう。どうしても思ってしまうなら、旅の終わりについてはまだ考えないことだ。
初めて会うタイプの人だった。
その顔をずっと見ていたくなるけど、そんな気持ちを僕に向けられても迷惑だろうから。
エイトウのイタズラも、ダンダンとの手合わせも、イヤだったけど我慢してきた。気持ちを隠すことには慣れてるさ。
やっぱり僕は、ルーガルみたいに率直にはなれそうもない。だからこそ、憧れるんだけど。
ノック? こんな時間に?
僕は跳ね起きて、音のした方を見た。
ドアからじゃない。窓の方から聞こえる。
ここ、二階なんだけど・・・?
僕は窓をふさぐ木の扉に駆け寄った。
やあ、こんばんは。君に話があるんだけど。
窓を開けると――窓枠に手をついて、ルーガルが浮いていた。