子供の事で気まずい雰囲気になった結婚生活。

しばらくはギクシャクした感じにはなったものの、彼女の事が嫌いになったわけではないし、時間が経てば考え方も変わるかもしれないし、とりあえず子供の事を考えるのは先送りする事にした。子供がいないぶん、結婚前の恋人関係みたいな感じで、共通の趣味である旅行や美味しいものを食べ歩くなどして仲良くしてた。子供の事はともかく、それはそれで楽しい結婚生活だった。楽しい結婚生活を送っているうちに、男性のことが好きになるっていう性的指向もすっかり影を潜めて、俺はもう完全にノンケに戻ったのだと思っていた。



ところが人間の本性なんて、そうそう変わるものではないのだと思い知らされる。また男性の事が恋しくなり始めたのだ。きっかけが何だったのか明確には覚えていないが、子供の一件で、そもそも夫婦という形で一緒に暮らす事に意味があるのかと疑問を感じ始めていた時に、初めての男性との経験(記事参照)を思い出した。この時点で俺の年齢は既に40代。このまま本性を隠して、一回も男性と恋愛する事なく一生を終えてしまうのかという焦りや虚しさみたいなものがあった。俺の事を好いてくれた初体験の男性と恋愛できるチャンスもあったのに、時代背景があったとはいえ、俺が臆病だったばかりに、その貴重な機会を自ら捨ててしまった後悔もある。



女性との恋愛はそれなりに経験したので、男性への興味さえ無ければ、既に人生を謳歌した気になって満足していたかもしれないが、男性との恋愛経験が無いことで、いつまでもあの時の後悔が消えず、引きずる原因となっているのかもしれない。そんなモヤモヤした想いは50代になった今でも変わらない。



そんなモヤモヤした気持ちを紛らわせるために、俺はインターネットで男性の写真や動画を漁ってオカズにするようになった。なんせ、以前に男性に興味を持っていた時期、男性を探すツールといえば伝言ダイヤルしか無かったわけだから、それはもう隔世の感があった。暫くはインターネットでオカズを探しまくり、それで満足していたと思う。ところが一旦暴走し始めた男性への興味は、それだけは収まらなくなっていった。やっぱり生身の男性と会いたい、キスしたい、エッチしたい、あわよくば恋愛もしたい。でもこんな年齢で恋愛なんて無理だろうし、何より妻の事は変わらず好きだったし、大事な人である事に変わりなかったので、恋愛は既婚者としての最後の境界線を超えてしまうと思った。



そんなおり、俺はインターネットであるものを見つけた。

俗にいうウリセンだ。最初にウリセンのサイトを見つけた時はかなりの衝撃だった。ノンケ向けの性欲を満たす風俗はもちろん知っていたし、新入社員の頃に無理やり先輩に連れて行かれたりもしたが、(男性好きの俺が、そんな所に連れて行かれても全然嬉しくなかったけどね)まさかゲイ向けの風俗があるなんて!



ウリセンのサイトを見て、正直かなりトキめいたのを覚えている。好みの男の子が何人かいたからだ。20代の時の後悔もあり、あの時の恋愛を取り戻したいとでも思ったのか、俺は20代の男性に凄いトキめいたのだ。トキめいたといっても、そこはウリセン。向こうは商売だし年齢差もあるから恋愛に発展する事なんてあり得ない。でも俺にとっては、むしろその方が好都合だった。これなら境界線を越える事は絶対に無いと。


風俗に行くという事に関して、当然ながら罪悪感はあったが、自分を正当化するための理屈を色々と考え、自分を納得させようとしてしまった。



「夫婦別姓、子供の件で俺は妥協している、少しは自由に遊んでも良いじゃないか」

「異性でなく男性相手に性欲を満たすだけなら、妻を裏切る事にはならないのでは」

「同僚にも風俗行ってる奴は何人もいるし、俺もそれと同じだよ」



みたいな事だったと思う。こんな理屈が屁理屈だなんて事は頭では分かってる。でも結局は欲望を抑えられず、ついに目に止まった男の子の予約をしてしまった。今にして思えば、この瞬間、ダークサイドに堕ちていったのだ。偶然にもこの年は「スターウォーズ 〜シスの復讐〜」が公開された年だ。俺はスターウォーズが大好きだけど、まさかアナキンのように俺もダークサイドに堕ちるとは...