ところが、いきなり問題が勃発した。

彼女は結婚に対して後ろ向きだと言ってたけど、その大きな理由の1つが日本の戸籍制度だった。どういう事かというと、結婚したら女性が名前を変えなきゃいけない事に抵抗を感じていたそうだ。名前が変わってしまうと自分のアイデンティティーが失われてしまうと。



必ず女性が名前を変えなければならないという制度では無いけど、世間的には圧倒的に女性が名前を変える例が多い現状を嘆いていた。男性である俺はその気持ちを完全に理解できる訳はないけど、そこは彼女の考えを尊重しなければならないと思ったので結婚は諦めていた。



なので彼女からプロポーズされた時には、一番にその事を確かめた。その時は我慢するって言ってくれた。俺は自分の名前に拘りは無かったので、俺が名前を変えても良いよって言ったけど、自分の我儘のために俺に名前を変えさせるのは、もっと嫌だとも言ってくれた。



ところが、新婚旅行から帰ってきて早々に、やっぱり名前を変えるのは嫌だと言い始めた。なんだか詐欺にあったような気がして、正直気分はあまり良く無かったけど、彼女が好きな事に変わりはなく、俺は受け入れるしかなかった。ただ、俺たち当事者はまだ良いとしても、夫婦別姓なんて概念を到底理解できない世代の親達には最後まで分かってもらえなかった。最後までというのは、実は一昨年に両親は亡くなってしまったからだ。性的指向もカミングアウト出来なかったし、妻の名前が変わった事も報告出来なかったし、孫の顔も見せる事が出来なかったし、最後の最後まで親不孝な馬鹿息子だ。父ちゃん、母ちゃん、こんな息子でごめん。



話は逸れたが、結局、夫婦別姓のまま新婚生活はスタートし、俺は若干の不信感を持ったまま、その後も続く事になった。