夜の帳が下りる頃、鷹丸は足早にお雪のもとへ戻った。燈火の灯る部屋で、
髪を結い直していたお雪が、鷹丸の表情を見て眉をひそめる。

お雪

どうしたんだい、しけた顔してさ

鷹丸は黙って腰を下ろし
ゆっくりと事情を語った。

武三の死
川辺での騒ぎ――
話し終える頃には、
部屋の空気がひんやりとした
ものへと変わっていた。

お雪

武三の旦那が死んじまったのかい

鷹丸

ああ

お雪

それで、その絵はどうするんだい?

鷹丸

返してくるさ。俺には必要ねぇからな

お雪

それだけで済むならいいけどね……

その言葉を背に、鷹丸は闇へと
溶けるように歩き去った。




夜霧の漂う中、鷹丸は慎重に
教会へと忍び込んだ。

しかし、足を踏み入れた瞬間
違和感が全身を貫いた。

鷹丸

……妙だ

教会特有の厳(おごそ)かで
静謐(せいひつ)な空気のはずが

そこには不穏な気配が充満して
いた。

まるで、何かが起こった
直後のような――。

鷹丸の胸がざわつく。

足音を消しながら奥へと進む。

やがて、お清とサヨリの部屋の
天井付近に身を潜め
そっと耳を澄ませた。

お清

サヨリさま、大変でございます

サヨリ

どうしました?

お清

フミがオスたちを使い、澄音を連れ去りました

鷹丸

なんだと……!?

サヨリ

なんですって! いったいなぜそのようなことを……

お清

それが……絵画が戻りしだい……

サヨリ

なんですか?

お清

生贄にすると

サヨリ

生贄!!

サヨリ

なんとなげかわしい……すぐに連れ戻すのです!

お清

それが……どこに連れ去られたのか、まだ分かりません

その言葉を聞いた瞬間、鷹丸の
身体が弾けるように動いた!

ドカッ!

お清

……何でしょうか?

サヨリ

それより、すぐに探しましょう!

サヨリが慌てて言い
お清も「承知しました!」と
部屋を飛び出していった。


鷹丸は既に、夜の闇の中へ
駆け出していた――。

鷹丸

はぁ
はぁ
武三の旦那が絵のことを話したのは……
福米屋の長治郎だ!

鷹丸

武三をやったのも、あいつにちげぇねぇ……!

言い終わるが早いか
鷹丸は福米屋へ向かい駆け出した。