ベシワク

つ、着いたぁ~

塔のふもとまで辿りつき、僕たちは一斉に息を吐いた。

ベシワク

やっぱり、数が多かったね。なんとか倒しながら来られたけど。

コペ

ベシワク、回復魔法かけたげるよ!

ベシワク

コペの魔力量は大丈夫?

コペ

大丈夫!・・・だけど、少し休んだ方が安心!

ヤムカ

オレも光線銃の点検しとくか。

グージィ

もしコワれてたらタイヘン、タイヘン!

少し休んだあと、僕たちはいよいよ塔に入った。

ベシワク

魔力量だけど、二人にはこのあと頼みたいことがあるんだ。この先はなるべく温存してほしい。

コペ

頼みたいことって?

ベシワク

そうだなぁ。この町は結界に覆われてただろ。ああいうもの、範囲が小さければコペも張れる?

コペ

人一人が入れるくらいのモノならね。

ベシワク

それを張ったまま、水を作り出す魔法を使える? この前、雨を降らせたみたいにさ。

コペ

ムリムリ! 結界を張るのは集中力がいるんだ、同時になんてできないよ。

ヤムカ

水を作り出すだけならオレでもできるぜ。

ベシワク

本当?

ヤムカ

コペの魔法より小規模になるがな。大火事は無理でも、キャンプファイアーくらいなら消せる。だが、結界と水魔法で何する気だ?

ベシワク

うん。リリーシカを止めたいんだ。

ルーガルを止めるためにここまで来たけど、それだけでは不十分だ。リリーシカを何とかしなければ、ルーガルは考えを変えないだろう。

ベシワク

止めなきゃならない。でも、傷つけたくはない。だから話し合いの余地を作るために、いったん動きを封じたいんだ。

ヤムカ

動きを封じる? どうやって?

ヤムカがいぶかしげに尋ねたときだ。
僕たちの頭上に影が落ちた。

ベシワク

よけて!

ヤムカ

なんだ・・・!?

突然現れた巨大な拳が、僕たちのいた場所を叩き潰していた。
とっさに後ろへ飛んだので、無事だったけど――

ユヌグット

ふふふ・・・

ポウ

・・・・・・

死角から現れたのは、大きな魔物を引き連れた、髪の長い魔物だった。
髪は腰の下までもを覆い、その先から蛇のしっぽが見えている。

ベシワク

おまえは〈仁者のもてなし〉を奪った・・・!

ユヌグット

我が名はユヌグット。リリーシカ様は今、客人の相手で忙しい。虫けらに会うお暇はない!

ポウ

ぐぉおおお!

ユヌグットが指揮するようにしっぽを振った。
もう片方の魔物が大声で吠え、巨大な拳を振り上げる。

僕たちが避けた一瞬のち、拳は床を殴りつけた。
動きはのろいが、大きさが大きさだ。もし食らったら、ぺしゃんこになってしまうだろう。

ベシワク

魔物が魔物を使役してるのか!?

ヤムカ

そいつ、もしかしてゴーレムか?

ユヌグット

いかにも。これは我が愛しの人形、名をポウという。

ヤムカ

へえ、魔物にも趣味のいい奴がいるんだな。オレも人形遣いなんだ。だが残念、人形遣い同士じゃ勝負にならねえ。

グージィ

ほわ?

突然、ヤムカがグージィをつかんで塔の窓から投げた。
グージィは悲鳴を上げながら飛んでいき、すぐに視界から消えた。

グージィ

ほわわわあぁぁぁ・・・

ベシワク

ヤムカ!? なんで!?

ヤムカ

確かなる者、導く者よ、
うつろは忘る、一朝の夢を。
操人形解除〈アンチ・マリオネット〉!

ヤムカの呪文が唱えられる。
と同時に、ゴーレム・ポウが崩れ落ちた。

ポウ

・・・? ふしゅぅううう

ユヌグット

ポ・・・ポウ!

ヤムカ

この呪文、一定範囲内の人形全部に効いちまうのが困りもんだ。だがどうせ、ポウとやらが床にひび入れてくれたせいで、この先オレの人形は進めねえしな。

戦闘用人形は頑丈な分、とても重い。
見ると、さっきまで光線銃を構えていた人形たちが、そろって腕を垂らしていた。その手からヤムカが光線銃を奪い、構えた。

ヤムカ

食らいな!

放たれた光線がユヌグットを襲う! しかし――

ユヌグット

ふっ・・・そんなものか?

光線をまともに受けたのに、ユヌグットは平然と立っている。

確かに光線はユヌグットの体を切り裂いた。しかし断面はすぐにくっついたのだ。名残として、体の表面が波打っている。

ユヌグット

私は水の魔物。形なきものを壊すことはできんぞ。

ヤムカ

チッ。光線銃が効かねえ。

ベシワク

でもコアは形があるはずだ。正確に撃ち抜けば・・・

ヤムカ

いや、光線銃じゃ無理だ。

コペ

形ないものは壊せない、なら、形があればいいんだよね?

コペ

豊かなる者、流れる者よ、
知恵と豊穣もたらす者よ――

ユヌグット

実体化魔法だな!? させん!

ユヌグットの手のひらに、水の塊が生み出される。
放たれた水魔法の攻撃を、ヤムカが戦闘用人形を盾に受けた。

ヤムカ

邪魔させっかよ。

コペ

幻実体〈マテリアライズ〉!

コペが呪文を唱えると、ユヌグットの体が波打つのをやめる。

ユヌグット

この――!

ユヌグット

ウッ!

ユヌグットがコペとヤムカを気にしている間に、僕は相手の死角に回っていた。
背後から突き刺した剣をねじって、ユヌグットの体を斬り裂く。隠れていたコアが現れた。

ベシワク

えいっ!

ユヌグット

うぎゃああああ!

コアを叩き割ると、ユヌグットは悲鳴を上げて姿を消した・・・。

グージィ

ごっ、ごシュジン~!

僕たちが戦っている間に、投げ飛ばされたグージィは塔まで戻ってきたようだ。小さな体で駆け寄ると、怒った顔でヤムカをにらんだ。

グージィ

ワタシ! ナニかしましたか!?

ヤムカ

ああ、悪かったな。解除呪文を唱えるのにそばにいられたら困るからさ。

グージィ

ヒドい、ヒドい! もうごシュジンとはクチをききません!

ヤムカ

そう言うなよ。おまえが動かなくなるのがヤだったんだって――

グージィ

キョウからはこのヒトをごシュジンにします!

ヤムカ

は?

グージィが僕にしがみついた。器用によじ登り、僕の肩の上に収まる。

ヤムカ

は?

ヤムカがにらんでくる。
でも正直、前もって説明しなかったのが悪いんじゃないかな・・・

コペ

グージィ! あたしの肩も空いてるよ!

コペが目をキラキラさせながら手を伸ばした。
ヤムカはコペのこともにらみ始めた。

ルーガルとリリーシカ②

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