ーー3年前
ーー3年前
その夜、いつものようにクラブの薄暗い照明の中で
サリーとシオンは音楽に身を任せていた。
シオンの恋人、リックが現れると、
二匹はまたもや互いに甘い言葉を
交わしながらいちゃついている
サリーは少し冷めた目でその光景を見つめ
ため息をつく。
シオンがサリーに気づき、
少し離れた席から歩み寄った。
私、そろそろ今の
仕事やめようかなって思って
え!どうして?
シオンはほんの少し照れたように
けれど嬉しそうに答えた
実は…妊娠したの
え!!もしかして
リックの?
うん
お、おめでとう・・・
シオンの喜びに満ちた顔を見ながらも
サリーはリックの裏の顔を知っていた。
リックがドラッグの売人だということ
そして彼自身がドラッグに依存していることも。
だが、シオンはその真実を知らない。
ありがとう
サリーの心は葛藤していた。
シオンには黙っておこうか
それとも真実を告げるべきなのか。
けれど今、言うべきじゃないと思った。
シオンは幸せそうに微笑んで、
サリーの言葉を喜んで受け入れた。
シオンが妊娠したことを知ったサリーは
リックにもうドラッグも売人も
やめるように話す決心を固めた。
リックに会うには
グループがたむろしている
倉庫に行くしかなかった。
しかし、グループ以外は立ち入り禁止のため
サリーはシオンになりすまし倉庫へ向かった。
夜の闇に包まれた街を歩きながら、
サリーはリックがいる倉庫の前にたどり着いた。
少しだけため息をつき、足元を見つめる。
倉庫の前には、リックの仲間、デイビスが立っていた。
あれ
シオンさんか?
ええ、リックはいるかしら?
おう、いるよ。
デイビスは倉庫番のような存在で
サリーに無関心そうに返答した。
サリーはそのまま倉庫の中へ足を踏み入れた。
中は薄暗く、リックが一人で
座っているのが見えた。
リックお願い、話があるの。
リックはサリーを見つめ
一瞬驚いたような表情を浮かべたが
すぐに薄く笑った。
ん?
サリーじゃないか、
俺に会いにきてくれたの?
彼はそう言いながら、サリーの肩に軽く手を回す
おれのために
変装までしちゃって
サリーの首にキスをしようとする
やめてよ
話があるの
聞いて
リック、シオンのために
ドラッグも、売人も
全て終わりにしてほしいの
その言葉に、リックは一瞬真剣な表情を見せた。
しかし、次の瞬間には冷笑に変わり
辞める?はは、冗談だろ
シオンは何も知らないのよ!
彼女を巻き込まないで。
おいおい、サリー
俺に命令でもするつもりか?
命令だなんて、
そんなつもりじゃない
ただ…
シオンが悲しむ
顔を見たくないの
リックだってシオンを・・・
その瞬間、リックは突然サリーの髪を掴み、
後ろに引っ張った。
彼の顔が耳元に近づき、低い声で囁いた。
!!
お前、俺が辞めたらどうなるか分かってるのか?
俺の仲間たちはどうなる?
俺のためにどれだけ身を
削ってきたと思ってるんだ
更生します、なんて言って
シオンと幸せになるだと?
ふざけるな!
サリーの心は恐怖と怒りで揺れた。
だが、リックの言葉の端々から
どこかに隠された弱さを
感じ取ったような気もした。
…でもシオンは
あなたを信じてるのよ
リックは一瞬、戸惑ったような表情を
浮かべたが
すぐにその迷いを振り払うように
サリーを突き放した。
二度と俺にそんなことを
言いに来るな、サリー
・・・
サリーは必死に涙をこらえながら
リックの背中を見つめていた。
しかし
これ以上は聞き入れてもらえないと感じて
その場を離れようとした。
その瞬間だった
う!!
リックは突然、膝から崩れ落ちた
うぅぅぅ!!
サリーは慌てて駆け寄り、リックを揺さぶった。
リックどうしたの?リック!
しかしすでに命の灯は消えていた。
彼の体からは、ドラッグの跡が見て取れる。
心臓が激しく締め付けられるような感覚が
サリーを襲った。
リックがドラッグの過剰摂取で
死んだことは明らかだった。
そんな・・・
ジャラ・・
サリーの足元に鍵が落ちていた。
リックが倒れたその拍子に
ポケットから鍵が床に落ちたようだ
これは金庫の鍵?
これさえなければ…シオンにはリックが売人だったことを知られずに済む…
サリーは震える手で鍵を拾い上げた。
金庫を開けると、
中にはアタッシュケースにぎっしり詰まった
ドラッグがあった。
サリーはケースを手に取り、硬く握りしめた。
こんなものがあるから、不幸になる子が増えるんだ…
心は混乱し、後悔と怒りが入り混じる。
リックがもうこの世にいない今
これを持ち出したところで何になる?
それでも、ドラッグをこのまま
放置するわけにはいかなかった。
その時、階段を上がる重い足音が響いた。
おい、何やってるんだ!?
サリーが振り向くと、デイビスが立っていた。
彼の視線の先には、倒れたリックと、
金庫からドラッグを取り出している
サリー――いや
シオンに見える彼女の姿があった。
シオン…!?
お前何してるんだ!
!!
サリーは咄嗟にアタッシュケースを抱え
後ろにあった窓へと向かった。
待て!
デイビスが怒声を上げる中
サリーは窓を勢いよく開けると
2階から迷いなく飛び降りた。
着地の衝撃で一瞬息が詰まったが
すぐに駆け出した。
逃がすか!
デイビスの声が背後から追ってくるが
サリーは振り返らなかった。
冷たい夜風が頬を切る中、
彼女はアタッシュケースを抱えたまま
暗い街へと消えていった。
つづく