ヴィクターの店を出る頃には、
夜になっていた。

街の灯りが薄暗く揺れ、空気には
静かな冷たさが漂っている。

ポテト

ワトリー、今日はここで帰ろう。

ポテト

先輩が3年前の事件についても調べてくれてるし、ルーカスも捜索中だよ。何かわかったらすぐに報告するから

ワトリー

…わかったのだ。

ワトリー

カオリ、君がいなかったら、
ボクはここまで来られなかった。ボクのためにありがとうなのだ

カオリ

ワトリー…ともだち…

ワトリーも微笑み、互いに温かい抱擁を交わした。

そばでその光景を見守っていたポテトは
思わず目を潤ませる。

友情っていいなぁ。ウルウル

三匹は一旦別れたが、ワトリーはまだ
眠れそうにない様子で、もう一度事件の現場に
足を運ぶことにした。

夜も更け、会場に戻ると、
驚くほど多くの猫たちが外に集まっていた。

シオンの死を悼むファンたちが押し寄せ
街頭の下でひそひそと声を交わしている。

明かりがついたままの会場に
ワトリーは裏口から近づいた。

裏口には昼間も見かけた警備員のデイビスが
立っていた。ワトリーは軽く会釈をし
声をかけた。

ワトリー

こんばんは

デイビス

ん。
ああ、昼間の警察の方かい?

ワトリー

ボクは探偵のワトリーなのだ。
警察と一緒に捜査しているのだ

デイビス

そうか、遅くまでご苦労様だね。

デイビス

外の猫たちはシオンさんが亡くなったって報道を見て、最後の姿を見たいと集まってきてしまったんだ

ワトリー

シオンはもう…検視に回されているのだ

デイビス

ファンの気持ちはわからないもんだよ。暴動でも起きなきゃいいけど。

その時、突然、一匹のオス猫が
群衆の中から飛び出し、裏口までやってきた

シオンちゃんを出せ!! シオンちゃんが死んだなんて嘘だ!!

そのオスは叫びながら突進してきた。

ワトリー

危ないのだ!!

デイビス

セイ!!

ワトリーがよろけた瞬間、
警備のデイビスが見事な一本背負いで
その猫を投げ飛ばした

ぐはっ!!

デイビス

シオンさんはこの会場にはいない
帰りなさい。

ちくしょう!!

そのオスはあわてて逃げ去っていった。

ワトリー

すごいのだ

デイビス

まぁ、少しは格闘技もやってきたからね。
警察にも連絡して、群衆に解散を促すようにするよ

デイビス

ワトリーくん、中に入るかい?

ワトリー

はいるのだ

デイビスはカードキーを使い扉をあけた。




会場の中に入ると、まだ片付けの途中で、
あちこちに乱れた機材や衣装が散らばっていた。

ワトリー

まだ片付けが途中なのだ

どうやらファンが押し寄せて
作業が一時中断したらしい。

ワトリーは、シオンの楽屋へ向かっていた。

彼の心の中には、
姿を消したルーカスに対する疑念が渦巻いていた。

ルーカスが楽屋にいたのは
わずか1分という短い時間だったことだ。

その短時間で、彼が何をしたのかまではわからない。

だが、決定的な証拠がなければ
ルーカスを「犯猫」と断定することは難しい。

ワトリー

ルーカスの目的は何だったのか?

ワトリー

カメラに映ることで、自分が犯猫だと思わせるための策略だったのだろうか?

ワトリー

でも
あの机の下の水は
いったい何なのだ?

ルーカスが楽屋に入って、

用意していた水をシオンが見ていない隙に
机の下にこぼした。そして出て行った。

これなら1分程度でできるだろう。
しかし、何のために?

ワトリー

あの日は雨が降っていたのだ
それと何か関係があるのかな?

考え込んでいると、廊下の奥から
清掃員のジムが観葉植物を持ち歩いてきた。

ジムは明るい笑顔で近づいてきた。

ジム

おや、ワトリーくん。遅くまで
ご苦労様だね

ワトリー

ジム、まだ仕事していたの?

ジム

ああ、今日は忙しかったからね。最後のチェックをしていたんだ

ジムは廊下の台の上に観葉植物を載せた。

ジム

花瓶がないからね、これを持ってきたんだよ

ワトリー

ねぇジム、シオンが来る前に楽屋も掃除した?

ジム

もちろん、したよ
朝早くね。

ワトリー

その時、楽屋に何か
異変はなかった?
例えば水が漏れていたり

ジム

水?そんなのが漏れていたら
すぐに気づくはずだけど

ワトリー

やはりルーカスが机の下に
水をこぼしたのだ

ワトリー

ありがとう、ジム。もう少しだけ調べてみのだ

ジム

ああ、早く捕まるといいね

ワトリー

うん

そう言ってワトリーはその場を後にした。

そして警備室に向かいデイビスに話しかけた

ワトリー

デイビス、防犯カメラの映像は
戻ってきたのだ?

デイビス

まだ戻ってないけど
データーはあるよ

ワトリー

え!見せて欲しいのだ

デイビス

いいよ

と言って、映像を再生した。

ワトリーは真剣な眼差しで画面に集中する。

デイビス

犯人は捕まりそうかね?

ワトリー

それが・・

ワトリー

怪しいのは姿を消したルーカスなのだ、でもどうやってシオンを?

ワトリー

まだわからないのだ

ルーカスは楽屋で水をこぼしその後、
防犯カメラにあえて自分の姿を残した。

その後姿を消すことで、わざと自分を
疑わしい存在に仕立て上げる。

ワトリー

だとすると、犯猫はルーカスではない可能性があるのだ

もしルーカスがただのおとりだとすると
不良グループの中に隠れている
可能性も捨てきれない。

そしてもう一つの謎、エイミーが来る
20分間は楽屋は密室状態である。

犯猫はどのようにシオンを殺害したのか。

ワトリーは一息ついたあとエイミーが
出ていく様子を巻き戻しながら見ていた

画面に映るエイミーの様子を
じっと見つめながら、

その動き一つ一つに意味を
探るように眉をひそめた。

ワトリー

デイビス、エイミーはこの裏口から出たんだよね?

デイビス

そうだよ。すごく慌てている様子だったね

ワトリー

その時、何か言っていなかった?

デイビス

いや、何も。すぐに裏口から走って出ていってしまったからね

ワトリー

裏口から出ていく姿も見られる?

デイビス

これだよ

デイビスが再生ボタンを押すと、
映像には裏口のドアを勢いよく開け、

外へと飛び出していくエイミーの姿が映し出された。

ワトリー

エイミー…

頭の中ではヴィクターの言葉が
繰り返し響いていた。

もしヴィクターの言う通り、
シオンが亡くなる直前に
「自分の子供を守ってほしい」と
エイミーに託していたなら
彼女がこうして姿を消したのも説明がつく。

だが、何かが違う気がするのだ。

映像に映るエイミーの動きには、
ただの緊急事態を超えた何かが
潜んでいるように感じられた。

ワトリー

何かがおかしい…何か
違和感を感じるのだ

つづく