歓迎会は夜遅くまで続き、
笑い声や乾杯の声が響いていた。

新しいバイトの学生たちもすっかり打ち解け
店全体が一つのチームとして
活気を取り戻していた。

そんな中、女性たちだけタクシーで送る
という店長の提案で
解散することになった。

天城くん

守さん、
途中まで一緒に帰りましょう

あ、うん

二人は静かに夜道を歩き始めた。

そういえば・・天城くんはなぜ
ボクのことを下の名前で呼ぶんだろう?

天城くん

田中さんと何かあったんですか?

突然の質問に、守の心臓が大きく跳ねた。

な、何もないよ

天城くん

なんか途中から様子が
変わった気がして

田中さん、酔っぱらってたんじゃないかな

天城くん

なーんか隠してません?

か、隠してないよ

天城くん

ふーん

ああ、
オレも酔っぱらったかな

天城くん

ちょっと待っててください。水、買ってきますから

守は一人、近くの公園のベンチに腰掛け、
ふと今日の出来事を思い返す。

田中さんが店長に脅されていたこと、
そして彼女の涙。そのすべてが脳裏を巡り、

重苦しい気持ちが再び心に押し寄せた。

まさか、天城くんに言えるわけないよな

天城くん

お待たせしました

天城はペットボトルの蓋を少し緩めて
守に手渡した。

守はその気遣いに驚きつつ、
手を伸ばして水を受け取る。

君は本当に気がきく青年だな

天城くん

そうですか?

本当に、ルックスも良くて、性格もいいし。おまけにさりげない優しさで、みんなメロメロさ

天城くん

メロメロって…

君だったら紗良ちゃんとお似合いだ。もう、他の誰でもなく、君であってほしいよ

天城くん

紗良?何言ってるんですか、僕たちそんな関係じゃないですよ

まだ付き合ってないの?

天城くん

はい。僕は他に好きな人がいますから

そうなの!?

天城くん

はい。でもその人、他に好きな人がいるんです。今のところは脈なしかな

天城くんに振り向かない
女子がいるとはね

天城くん

本命にはフラれるんですよ

その一言に、43年間彼女がいない守は
不思議な親近感を覚えた。

どこか天城が、ただのイケメンで完璧な
存在ではないと感じ
少しホッとする自分がいた。

夜風が少し肌寒くなり、静かな公園の中

天城くん

守さん、紗良とはどうなんですか?

はは、どうって…何もないよ。
20以上も年が離れてるんだ。無理に決まってるだろう?

天城くん

年の差なんて関係ないでしょ

オレみたいなおじさんと、
紗良ちゃんが釣り合うわけないだろう。
わかってるんだ、でもそれでいいんだ。彼女の笑顔が見れれば
それだけで十分だよ

天城くん

そうなんですか…

天城くん

守さん、今まで彼女とかいなかったんですか?

な、なんだ急に?

天城くん

だって、好きだったら気持ちを
伝えたいって思うでしょ?

それは、そうなんだけど…

天城くん

守さん、もしかして…いつも自分には似合わないとか、
自分はダメだって思って、諦めてきたんじゃないですか?

その言葉が守の心に突き刺さった。

まるで天城が、守の人生をすべて
見透かしているかのように感じた。

43年間、守は誰とも深く関わらず
感情を抑え込み
自分を守るように生きてきた。

何かに挑戦することもなく
無関心に過ごしてきた自分。

そう、ずっと。

天城くん

もしかして…童貞?

そ、そんなわけないだろう!

天城くん

ふふっ、
じゃあ何人とsexしました?

に、20人・・

天城くん

童貞っぽいw

なんで!?
どうしてそうなるんだよ!

天城くん

嘘つけないんだから
無理しないの

う、嘘じゃないし

天城くん

守さん、キスしたこと…ある?

あるに決まってるだろう!

その瞬間だった






天城が守に近づき、ふいに唇を重ねた。


守は心臓が止まったように感じた

頭が真っ白になり


状況がまったく理解できない。

な、なにが起こってるんだ!?
どうして天城くんがオレにキスを…?

オロオロする守に構わず

天城はさらに深く

守の頭を引き寄せ、情熱的なキスを続けた。

守は混乱し、全身が熱くなるのを感じた。

心臓はバクバク鼓動を打ち

頭の中はパニックに陥っていた。

やがて、天城はゆっくりと唇を離し

・・・

天城くん

守さん、すごい汗…

ご、ごめん…

ん?なんでオレが謝るんだ?

天城くん

守さんのファーストキス、奪っちゃいましたね

あ、や・・・そ、そう

守は唖然としたまま、何も言えなかった。

まるで夢を見ているかのような気分だった。

天城くん

じゃあ、ボクはこっちの方角なんで、先に帰りますね。また店で

う、うん

守はただその場に取り残され、

夜空を見上げて深いため息をついた。

つづく

今、何が起きたんだ…?

13話 気付かなかった気持ち

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