12.創造

芹

とまぁ、こんな感じ

私

う、うわぁ・・・

たった今、
目の前で繰り広げられた光景は、
それはもう凄惨なものだった。

私

芹ちゃんは怒らせないようにしよう

ついっさきまで
蟻の形をしていたものの残骸から目を逸らし、
私は強くそう思った。

私

でも本当に凄い

あんなの完全に魔法だよ

芹ちゃんが行ったのは、
それはもう普通じゃない攻撃だった。

剣みたいな刃物が宙を舞って
蟻を串刺しにしていたし、
かと思ったら急に爆発して
跡形も残らないぐらいに
木っ端微塵になってしまうし・・・。

芹

流石にいきなり
ここまでやれとは言わないわ

でも、
いつかはやれるようになって欲しいかな

私

う、うん・・・

本当に私にあんなことができるのだろうか。

芹

ちなみにあなたが
想像し創造することが
上手くできなかったら、
その都度今みたいに
実演していくから

私

そうぞうし・・・そうぞうする・・・?

芹

頭で思い浮かべて、
造り出すっていうこと

私

あ、そういう想像と創造!

芹

字面を見たら
分かり易いかもしれないね

言われてみれば納得できる。

想像して創造する。

うん、分かり易い。

芹

ただ、
あなたの場合はちょっと大変かも

私

大変?

芹

ここは私の世界だから、
私は比較的楽に
好きなことができるの

でもあなたにとって
ここは他人の夢の中

だからたぶん、
無茶苦茶やり辛いと思うわ

私

・・・なるほどね

でも、大丈夫だよ

芹ちゃんの心配は理解できた。

でもその心配はあんまり意味がない。

芹

・・・・・・

私

だって元々ゼロからの
スタートなんだから、
どっちにしたって
苦労すると思う

芹

・・・それもそうね

私

それに芹ちゃんが
教えてくれるだから、
心配することなんて何にもないよ!

私はただ、
一生懸命頑張るだけだしね!

芹

・・・うん、任せて
ちゃんと・・・教えるから

私

ああっ、この芹ちゃん超可愛い・・・!

そういうわけで、
私の夢に慣れる特訓が始まった。

芹

まずは小さいものから始めましょう

私

小さいもの?

芹

なんでもいいんだけど、
何か想像し易いものってある?

私

う、うーん・・・

急に言われても何も思いつかない。

想像し易いもの・・・むむむむっ。

芹

思いつかない?

私

パッ、とは出てこないかな

芹

じゃあさっき私が出した、
蟻とか紙コップとかは?

実際に見ていたわけだから、
想像し易いんじゃない?

私

あ、なるほど

芹

蟻にする?

私

か、紙コップで・・・

虫が嫌いと言っていたけど、
実は好きなんじゃないだろうか・・・。

芹

それじゃあ紙コップを想像してみて

私

う、うん・・・

必死に脳裏に紙コップの形を思い浮かべる。

私

鮮明には思い出せない・・・

ふわっとした
イメージならあるんだけど

芹

ちなみに柄とかに拘りがないなら、
想像する時のイメージは
鮮明じゃなくても大丈夫

私

そうなの?

柄はない普通の白いやつだけど、
無茶苦茶しっかりしたのを
思い浮かべちゃってたよ

芹

それでもいいんだけど、
細部までしっかりと
思い浮かべられないなら
むしろ上手くいかなくなるわ

私

ほほう・・・

芹

半端なのがダメってこと

しっかりとイメージできないなら、
なんとなくなイメージをした方がいいの

どういうものかさえ分かっていれば、
あとは記憶の方で
勝手に補間してくれるから

私

何それ便利

芹

もちろん記憶にないものを
想像するならしっかりと
イメージしないとダメよ

私

じゃあさ、
ふわっとしたイメージのままで
大丈夫なの・・・?

芹

大丈夫

なら言われた通り、
ふわっとしたイメージに留めておこう。

私

想像して、その次は?

芹

それがそこにあると思い込んで、
強く信じ込むの

ここには紙コップがある、
ない方がおかしいんだって、
強く信じ込んでみて

私

紙コップ・・・むむむぅ!

念じてみた。

自分なりに強く、念じてみた。

芹

手先に意識を集中させてみて、
次第にじんわりしてきたりしない?

私

う、うん・・・する!

両手の掌に意識を集中させればさせるほど、
掌が熱を持ったみたいに感じられた。

芹

普段ってそんなこと
気にしたこともないでしょ?

でも手先に意識を向けると、
普段感じられいものを感じて、
普段感じられない感覚を覚えるわ

確かに意識して身体の一部に意識を
集中させることなんて中々しない。

目を凝らしたり耳を澄ませたり、
感覚に意識を向けることはあっても、
身体の部位にはなかなか
意識を向けたりはしない。

だって普段は何も意識することなく、
当たり前のように動かしているから。

芹

普段と違うっていう
その感覚を切欠にするの

普段感じていない
そのじんわりとした感覚がある時、
手の中には
想像したものがあるって、
そう思い込むの

私

手の中に紙コップ・・・!
手の中に紙コップ・・・!

目を瞑り、
何度も何度も必死に考えた。

頭の中で紙コップのことを想像し続けた。

だがそれ以上に、
掌の方に意識が向いた。

そこにあって紙コップが存在して欲しい、
そう思い、広げた掌が自然と閉じていく。

――すると

何かに触れた。

私

・・・!

反射的に目を見開き、
掌を確認した。

私

・・・あ!

芹

うん、上出来

笑顔で褒めてくれる芹ちゃん。

自然と掌に力がこもった。

そしてそんな私の掌の中には、

小さな紙コップが握られていた。

私

やった!
できた!

芹

初めてで成功させるだなんて凄いわ

私が初めて創造した時は、
もっと苦戦したもの

私

芹ちゃんが教えてくれたからだよ!

アドバイスがなければ
絶対に出来なかったと思う。

芹

普通にセンスがあると思うわ

最後、目を瞑ったでしょ?

私

うん、必死だったから自然と

芹

あれって実はかなり効果的よ

私

そうなの?

私は何も考えず、
自然とそうしていただけなのだが・・・。

芹

創造する時ってね、
それがどう現れるかをイメージし辛いの

私

確かにたった今、
紙コップを造ってみせたけど、
どうやって現れたかは分からない

だって気付いたら
手の中にあったんだもの

芹

それがとっても大事なの

目を閉じてしまえば
見えていないから、
そこを考えてよくなるの

私

つまりこういうこと?

紙コップがあると思い込んで造り出した

でもどう造ったかは
見ていないから分からない

だけど造ったから手の中にある

芹

ちょっとややこしいけど、
そんな感じ

どれだけ自分を誤魔化しながら、
それがあると
思い込めるかがコツだね

正直一回できただけで、
同じことを何度もできる気はしない。

芹

この調子なら案外すぐに
夢に慣れて私と同じ事を
できるようになりそうね

私

まだ自信はないけど、頑張るね

自信がなくたって、
私にはもうやる以外の選択はない。

やるしかない、それだけなんだ。

芹

それじゃあこの調子で
色々創造してみよっか

できれば茜さんの夢に行く前に、
自分の夢を知覚できるようには
なっておいて欲しいからね

私

夢を知覚・・・

字面でなら意味は分かるけれど、
それが実際にどういうことになるのかは
まるで想像がつかない。

芹

少しぐらい休憩する?

私

ううん、
感覚を忘れない内にもっと練習したい!

芹

そう・・・じゃあ、頑張ろっか

そうして私は、
急速に夢に慣れていくのだった。