8.休息

私

・・・は?

これ以上驚くことはないだろう、
そんなことを思っていたのに、
普通に驚いてしまった。

私

それ・・・どこに繋がっているの?

芹ちゃんが開け放った扉は、
見慣れない部屋に繋がっていた。

廊下に繋がるべき扉のはずなのに、
廊下でない場所に繋がってしまっていた。

芹

驚いた?

私

そ、そりゃ・・・

驚かないわけがない。

今日はもう何回も驚いているけれど、
やっぱり驚いた。

芹

ここから先は私の世界、
私の夢だから

だからこの夢に居るあなたは、
この境界は越えられない

私

そういうものなの?

どこに行くのかと思っていたけれど、
扉の向こうにある場所に行くだけなら、
私はついて行きたい。

目に見えない場所ならともかく、
目に見えてしまっては、
そう考え期待してしまう。

芹

うん

今まで誰も、
私の夢には来れなかったから

私

そ、そうなんだ・・・

目の前に一縷の希望が現れた気がした。

芹ちゃんは来れないと言っているけれど、
本当にそうなのだろうか?

私

・・・よしっ

ちょっとだけ迷ったけれど、
言わないまま後悔するよりはと思い、
思い切ったことを提案することにした。

私

あの、芹ちゃん

芹

・・・なに?

私

私はその扉の向こう側には
行けないんだよね?

芹

そうね

私

えっとね、
芹ちゃんを疑っている
わけじゃないんだけど

芹

うん

私

たっ、試してもいい?
扉を通るの

やる前から無理だと言われても、
納得できなかった。

芹

・・・・・・

私

お願いっ!
試すだけだから!

思案する芹ちゃんに、
駄目押しのお願いを重ねる。

芹

・・・はぁ
分かった、いいよ

でも多分ダメだと思う

それに弾かれると結構痛いから

心配そうに言う芹ちゃんは、
あっさりと扉の向こう側に行って、
振り返った。

通ってみろ、と言うことなのだろうか。

私

い、痛いのは嫌だけど・・・
が、頑張るぞぉっ!

意を決して、
私は歩き出した。

一歩一歩が、とても遠く感じられた。

それでも、私は前に進んだ。

その先に孤独にならない可能性があるから、
私は目を瞑りながら、敷居を跨いだ。

私

ええいっ、なるようになれ!

そして私は扉の向こう側へ――

芹

・・・嘘

――行くことができた。

私

い、行けた・・・!

敷居を跨いですぐの所に居た芹ちゃんが、
目を見開いて驚いていた。

そして唐突にぎゅっと私のことを抱き締めた。

私

うわわっ!

ど、どうしたの、
いきなり!

芹

ちゃんと居るんだよね

あなたはここに、居るんだよね

ぎゅっとした後、
ペタペタと私の顔や身体を触り
繰り返すように聞いてくる芹ちゃんに、
私は笑顔で答えた。

私

居るよ!
私は、ここに居るよ!

これで一人にならなくて済むと思い、
目一杯喜び安堵した。

芹

はぁ・・・
まさか本当に来れちゃうだなんて・・・

私

これで芹ちゃんと
一緒に居られるね!

私、すっごく嬉しい!

芹

そうね
一緒に居られる

私

やっぱり戻れとか言われても、
戻らないからね?

念の為確認すると、
芹ちゃんは苦笑した。

芹

そんなこと、言わない

私

えへへ、良かった!

芹

さっきの部屋、
無駄になっちゃったね

芹ちゃんはゆっくりと扉を閉めた。

芹

まぁ、もう必要ないからいいけど

そんな芹ちゃんの呟きを聞き流して、
私は新しくやってきた室内を見渡した。

私

ここって、図書室?

芹

うん
私が通っていた学校の
図書室がモデル

芹ちゃんが近くと椅子にを引いて座った。

私もそれに倣って、隣の椅子を引いて腰掛けた。

私

はぁぁぁ・・・
ようやく一息つけるよぉ

芹

お疲れ様

夢の中だから肉体的には疲れないけど、
精神的には結構くるからね

私

た、確かに身体は
全然大丈夫なんだよね・・・

汗をかいたのに水分を取らなくてよかったのも、
夢だからということなのだろう。

というか今も喉が渇いたり、
お腹が減ったりはしていない。

私

あぁっ・・・陽の光が
心に沁みるよぉ・・・

そのまま机の上に突っ伏し、
頬を天板に乗せると、
ひんやりとして気持ちが良かった。

芹

・・・くすっ

ふと、芹ちゃんが小さく笑った。

クールでポーカーフェイスな
芹ちゃんの笑顔は、
不意打ち気味に現れて、
すぐに引っ込んでしまった。

それがちょっともったいなく感じられた。

私

どうしたの?

芹

あなたって、面白い

私

へ?
そう?

芹

うん
とっても、面白い

それにね、
ここはいつも
私が一人で居る場所だったから、
そこに誰かが居るっていうのが、
不思議で、新鮮で・・・

私

変な感じがする?

芹

ええ、変ね

でも、悪くはない、かな

私

一人って、寂しいもんね

しみじみと思う私は、何度も強く頷いた。

芹

一人なのはもう慣れちゃったけど、
でもそうね・・・
やっぱり誰かと居るのは、落ち着く

私

それじゃあ、
しばらくは私が
居るから寂しくないね!

私も芹ちゃんと居られて
寂しくなくなるから、
良いこと尽くめね!

芹

別に寂しくは・・・
はぁ、まぁ・・・いっか

とはいえ、
いつまで私がここに居られるかは分からない。

それにここがどういう場所かも、
よく分かっていない。

分からないことだらけで、
これから大変になるんだろうという
予感だけはひしひしと感じた。

ただ今は、
ゆっくりと腰を据えて
落ち着けるからと全てを後回しにして、
今は休むことを優先にしている。

芹

色々と説明した方が
いいことがあるんだけど、
とりあえずは休もう

私

大賛成!

休みながら、
聞きたいこととか整理しておくね!

芹

私もちょっと疲れた

そう言うと、
芹ちゃんは私と同じように
机に突っ伏して天板に頬を乗せた。

私

くすくすっ、私達何やってんだろ

芹

何って・・・休んでいるんだよ

私

えへへ、そうだねっ

兎にも角にも、
私はようやく休息を取ることができるのだった。