7.受容

私

安全な場所・・・
安全な場所・・・

どこだろう・・・
安全な場所って

芹

ほら、行くよ
こっち

私

あ、うん

なんとなく、
握られた手をぎゅっと握った。

すると、
芹ちゃんもぎゅっと握り返してくれた。

私

えへへ、なんか嬉しいっ

芹

・・・・・・

ずかずかと歩き出した芹ちゃんに連れられて、
私は駅の近くにあるビルの中に入っていった。

連れられてやって来たのは、
どこかの事務所のようだった。

私

ここが・・・安全な場所?

どのへんが安全なのか、
サッパリ分からなかった。

芹

まだ安全ってわけじゃないよ

これから、安全にするの

私

はぁ・・・

どう安全にするというのだろうか。

私

むむむむっ

よく分からないけれど、
これから何かするのだろう
ということは察せられたので、
それを見逃すまいと芹ちゃんを凝視した。

私

うん、やっぱり芹ちゃんも可愛い!

暢気にそんな邪念を胸中に抱いていると、
芹ちゃんが私の方へと振り返った。

芹

よし・・・
これであの子は
あなたを感知できない

私

は?

いきなり何を言っているのだろうか。

というか見ていた限り、
芹ちゃんが何かをしたようには見えなかった。

芹

部屋の空気を換えたの

私が造った空気だから、
この中にいれば気付かれない

だから窓は開けないでね

芹ちゃんはいったい
何を言っているのでしょうか。

私

芹ちゃん、頭大丈夫?

割と本気で心配した。

芹

・・・・・・

私の言葉に反応してか、
一瞬、芹ちゃんの表情が険しくなった。

そして無言のまま私の前にやって来て、

何も持っていないはずの右手を振り、
私の眼前で止めた。

私

はへ?

そしてその芹ちゃんの手には、
いつの間にか小さなナイフが握られていた。

私

ナ、ナイフなんて持ち出して、
いきなりどうしちゃったの・・・?

突然の敵対行動に、
私の頭が真っ白になる。

ちょっと失言だったかもしれないが、
そこまでされるようなことではないはずだ。

呆然とする私を尻目に、
芹ちゃんは手にしたそのナイフを手放した。

私

・・・・・・

足元に落ちたナイフに視線を落とし、
再び芹ちゃんに視線を戻した。

芹

・・・・・・

すると何も持っていないはずの芹ちゃんの手から
新しいナイフが現れた。

私

・・・!?

滲むように現れたナイフを前にして、
私はそれを見間違いかと思った。

もしくは最初から持っていて、
最初は持っていないかのように
錯覚していただけなのかもしれないと考えた。

眼前の現実を受け入れきれず、
そういった言い訳を必死に考えた。

しかしそんな私の現実逃避も、
芹ちゃんが再びナイフを
手放したことにより無に帰した。

再び床に落ち、
音を立てるナイフ。

間違いなくそれは本物で、
間違いなくそこに存在していた。

私

なに・・・それ・・・

芹

言ったでしょ、夢の中だって

それが今の現象とどんな関係があるというのか。

私

ゆ、夢の中だから
何でもできるとでも言うの?

そんなのは馬鹿げていると、
そう思いたくなるけれど、
でも・・・・・・。

芹

何でもはできない

でも、これくらいならできる

私

・・・・・・

流石に実演されては、
異論を挟む余地はなかった。

芹

この世界はあの子の夢で、
厳密にはあの子を蝕んでる
夢のものだけど、
こうやって創造したものは
あの子の夢じゃなくて、私の夢

だからあの子はそれを感知できない

よく分からないけれど、
ああやって何かを
造り出せるということなのだろう。

私

な、なるほど・・・
えーっと・・・つまりこう?

芹ちゃんはこの部屋の空気を造った

その空気は芹ちゃんが
造ったものだから、
茜ちゃんには分からない

だからそこに居れば私のことも
茜ちゃんは分からない

オーケー?

必死に噛み砕いて、理解しようとする。

芹

うん、オーケー
そういうこと

あっさりと肯定されてしまった。

私

な、なるほどね!

色々と残る疑問を棚上げにして、
表面上は納得しておくことにした。

しかしこれはもう芹ちゃんの話を
全面的に信じるべきではないだろうか。

ここは本当に、
夢の中なのだろう。

少なくとも私にある知識では、
先程の現象を説明できない。

芹

いきなり理解しろ
っていうのも酷だから、
今は休むといいよ

ここにはソファーもあるし、
何なら眠ってもいいし

夢の中で眠るというのは、
なんだか変な話である。

というか眠れるのだろうか?

私

でも休めるのは嬉しいな!

ずーっと動きっぱなしで、
正直疲れたんだよね

芹

そう
じゃあごゆっくり

そう言うと芹ちゃんが室外へ出て行こうとする。

だから私は慌てて芹ちゃんの手を掴んで止めた。

私

ちょっ!
どこに行くの!?

まだ出会っても間もないが、
それでも芹ちゃんの傍から
離れるのには抵抗があった。

それは芹ちゃんと会う前の
一人に戻ることを意味する。

例え芹ちゃんが一時離れるだけだったとしても、
今は人恋しいというのが本音である。

芹

言ったでしょ
あなたのことを調べるって

私

だ、だからどこかに行くの?

芹

ええ、だってここでは調べられないもの

私

そんな・・・

芹ちゃんの傍に居たい。

茜ちゃんが怖いのではない。

一人になるのが怖かった。

芹

そんな顔をされると、困る

私

うぅ・・・
我侭なのは承知の上だけど、
一人は嫌・・・

芹

できるだけ早く戻るから

一人になりたくない。

でも、それじゃあ何も変わらないままだ。

私

・・・っ

私のことを調べてると、
芹ちゃんは言ってくれている。

そしてその為には
私が一人でここで待たないといけない。

私

芹ちゃんは私の為に
骨を折ってくれるんだ

余計なことで煩わせるべきじゃない

だったら、私がするべきは待つことだろう。

嫌だけど・・・超嫌だけど!

私

わ、分かった
しょ、しょうがないもんね!

私、待つよ・・・

本音を隠して、私は虚勢を張った。

芹

・・・ありがとう

そう言うと芹ちゃんは、
掴んでいた私の手を優しく剥がした。

掴む先を失った手を、
私はぎゅっと握り込んで
感情を押し殺した。

私

我慢よ、私・・・我慢我慢!

前の私がどうかは知らないけど、
今の私は我慢のできる女よ

ファイト、私!

自分にそう言い聞かせる私を尻目に、
芹ちゃんは私と同じように
掌をぎゅっと握り込んだ。

そして数秒後、握り込んだ掌を開くと、

小さな鍵を手にしていた。

ついっさきまで、
手には何も持っていなかったはずだ。

それはつまり、
たった今造り出したことを
意味しているのだろう。

私

夢の中というよりも、
ファンタジーな世界って
認識するべきね

鍵を手にした芹ちゃんは、
そのまま出入り口の扉に近づいた。

そして内側に鍵穴なんて存在しないはずなのに、
鍵をドアノブに突き刺した。

私

私ってば幻覚でも
見てるのかな・・・

目を擦って見直すが、
やはり鍵がドアノブに突き刺さっていた。

いったいどういうことなのだろう。

いい加減驚くのにも飽きたのだけれど、
やっぱりビックリするものは
ビックリしてしまう。

そして困惑する私を余所に、
芹ちゃんはその鍵を一回転させた。

すると施錠音がして、
その後鍵が溶けるように消えた。

私

なんだか驚くのが
馬鹿馬鹿しくなるなぁ

そして芹ちゃんがくるっと振り返り、

芹

それじゃあ、行ってくるね

そう言った。

急に寂しくなり始めたが、
我慢した・・・超、我慢した。

私

うん!
行ってらっしゃい!

先程の鍵を回すという行動の意味とか、
芹ちゃんがどこに行くのかとか、
疑問はいっぱいあったけれど、
今は芹ちゃんを見送ることに
専念しようと思った。

芹

・・・・・・

そして芹ちゃんはドアノブに手を握り、
扉を開いた。

そうして開かれた扉の先にある光景を見て、

私

・・・は?

今日何度目かになるか分からない、
驚きの感情を抱くのだった。