いつもより早く狼化したせいか、変身が解けるのも少し早かったです
分厚いカーテン越しの空はまだ暗かったです

ボクはシャワーを借りて、出てくると真夜がいました

メシを買ってきたぞ

きゅうけつきもこんびに使うんですね

当然だ
夜中も開いてるから重宝する

ちょっと不思議な感じです…

君が咥えていた服は土まみれだったから袋に詰めてある
後で持って帰れ

…アリガトウゴザイマス…

いま着ているその服は返さなくていい
面倒だからな

ちょっと短いです…

真夜はボクより背が低いです
ちょっとボクを見上げてからむすっとしました

…うるさい

ボクらは食事を始めました

…吸血鬼がおにぎりを食べるのが
またちょっと不思議でした

おにぎり、食べるんですね?

鮭とたらこが...って、
もしかして私が血しか飲まないとでも?

ええと…

一応、消化はできるぞ?
どの程度体に取り込まれているのか、科学的興味があるが、実験体になるのはごめんだ

血が必要な時には
以前は店の客に声をかけていた
献血一回分で夢の中だから安い買い物だろ?

…うわー
自信満々ですね…

まあ、もちろん血が欲しい、なんてストレートには言わないから、商取引上の契約が成立しているわけではないが…

まあ、男女の話はその辺はデリケートなのさ

……

この間見たアニメでは
吸血鬼が人間は食糧って言ってました…

やれやれ…
創作を真に受けるなよ

もちろんそういう認識の同胞もいるが…

私はそうは思わない
直接いただくときには深く感謝しているし、
血液パックも有り難く頂戴している

……?

私は人間を敬愛している!

たった今語ったその創作物でさえ、
人間の優れた能力の賜物じゃないか!

もっとも、創作物のせいで同胞が随分と過大評価されているがな…

真夜はおにぎりを食べながら力説し始めました

いいか?
吸血鬼は陽を浴びることが出来ない存在だ
その弱点を忘れてはいけない!

その弱点を忘れて、あたかも人外の存在の王だの、頂点だの…

我々はそんなご立派な存在ではないのだ!

陽の当たらぬところで儚く、か弱く…
朝日とともに散る存在なんだ!

は、はぁ…

まあ、夜になればそこそこ腕力もあるが…
飽く迄!
我々は夜の存在なんだ!

これは吸血鬼としての美学の問題だ!
矜持だよ!
陽の光の下でピンピンしているなんて、そんなのは吸血鬼じゃない!

魔法の指輪を身につければ大丈夫!とか、初めてドラマで見たときには目を疑ったぞ!

あー、ありましたねー
おかーさんが見てました…

まあ、そんな人間の想像力も好ましいと思える程度には、私は寛大だがな!

はぁ

人間の創作物は素晴らしい!

…不死者である私には何かを生み出すことは出来ないんだ…

今は事務系ソフトのプログラマを
生業としているが、
仕様書通りに組み立てているだけだ

……

不思議なものだな
私はかつて人間だったが、その時のような想像力は湧いては来ない…

…神を信じていると言ったが…

それすらも本心なのかどうか、よくわからないのさ

ただ…

かつて信じていたことがある、
信仰心を持っていたことがある、
聖書の中の神秘的な話を心の支えにしていたことがある…

その感情ではなく…
単なる記憶データをいまだに持っているだけなのかもしれない…

今の私は残滓なのだ…

ざんし…?

のこりかす、ということさ

……

なあ…

はい?

そのデラックス鮭にぎり、食べないならもらっていいか?

あ…
ハイ…

もぐもぐ…

しかしながら、客商売をしていた頃、
店で客相手にならいくらでも嘘がつけたから、まったく創作できないのでもないかなぁ…

……

なんだかなあ…
創作?と言えるのかなあ……

ふう、美味かった

ボク、そろそろ帰ります

ああ…

君もコミュニティに入ったと
認識しても構わないか?

…ハイ

後日連絡する
電話番号は?

あー、すまほ…とかないです

以前住んでいた場所では携帯電話はほとんど通じなかったのです
だから日本に来てもそれほど必要を感じませんでした

…うーん…
まあいいか
何かあったらそちらから連絡しろ
番号は伝えておこう

あ、ハイ…
アリガトゴザイマス

くすくす…
しかし彼女をデートに誘うとき困るぞー

そ、そういう予定ないです…!

フフフ

つづく

第8話 1 オオカミ少年、戻る

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