つづく
男はボクを連れて部屋に入っていきました。
きれいに片付けられた生活感のない部屋です…
まあ、ゆっくりしてくれ
……
ボクがソファに上がると男はちょっと嫌な顔をしました
まあ、この姿ならソファに上がらずに床に伏せるとでも思ったのでしょうが…
ボクとしてはあまりこの姿に慣れてはいないので、どちらかと言うとソファの方が楽です
汚さないでくれよ…
この部屋で時々商談をするんだから
ちょっとうるさいです…
人外と言えど、生計は立てないとな
今はフリーのプログラマをしているんだ
フルリモートで働けて、日中に外に出なくても、生活できる
ここに引っ越してくる前は
都会の方でホストをしていたんだ
幸い、夜には強いからね
趣味と実益を兼ねていたんだが…
ここ数年で業界もいろいろとダークになってきた
客の若い女の子に無理やり借金をさせる業務スタイルは
私の好みではなくてね
いらない情報です…
しかし君、あまりジロジロと女の子を眺めちゃだめだよ
……
まあ、気持ちはわからないでもないが…
あの子はすごくいい匂いだな?
グルル…!
おおっと!
そう唸るなよ
……
君も感じているんだろう?
あの子の血は特別のようだ
……
あの甘そうな香り…
アレを味わえたら、吸血鬼冥利に尽きるよ
ウウウ…!
ははは!
冗談だって
さすがに隣人の血を吸うのはリスキーだからな!
え? 隣人???
こいつ、相川さんのお隣さんなのか…
……どうやら男は吸血鬼のようです
道理で部屋が妙に暗いはずです
しかし、彼女自身は苦労しているかもしれないな
あの香りは我々だけではなく、人間も無意識のうちに狂わせる
トラブルに巻き込まれたり、男に執着されたり…
狼男にガン見されたり?
うう…
グルルル…
くすくす、失敬
統計的にも満月の夜は犯罪が増えるらしい
月が心を惑わせるのは人狼だけではないみたいだな
…彼女のような特殊な香りの血を持つ者は今日のような夜は要注意だな
人狼ばかりではなく、人間に対しても…
……
改めて自己紹介しておこう
私は月野 真夜(つきの しんや)、
吸血鬼だ
この街のコミュニティの便宜上のリーダーだよ
なんとなく偽名っぽいですね
日本人には見えませんが…
う~む、犬に向かって話しかけるのも不思議な感じだな…
犬じゃありません
人間とのハーフとはいえ、その姿になっても人間の人格が残っている人狼はあまり多くないと聞く
無事に保護できてよかった…
君も今日のことで気づいただろうと思うが…
たとえば君が野犬狩りに捕まって、朝を迎えたとする
当然君は保健所なり、保護施設なりで人間の姿に戻るわけだが…
その際、君は自分のことをどのように説明する?
狼男が現実の存在だとバレれば、他の伝説上のモンスターもその存在が露呈してしまう
そうなれば、狩りが始まる
直にそれは人間同士の疑心暗鬼にも繋がるだろう…
私のように陽の光を浴びることの出来ないもの、君のように満月を嫌うものなど、目立つものは恐れられ、嫌われ、差別されるようになるだろう…
たとえ本当は人間であってもね
かつて、人間はその過ちを犯した
魔女狩りの歴史は知っているだろう?
……
無論すべてがそんな誤解の産物ではないが、やっかみ、嫉妬などで誰かを陥れたり…なんてこともあったようだな
……
だから我々は可能な限り人間に紛れることにした
それが人間にとっても、我々人外にとっても好ましい方法だ
これはもう何世紀も続いているんだよ
特に今はちょっとした情報がすぐに流れ、広がる社会ができあがっている
SNSとかな…
だからこそ、我々は協力しあってボロを出さないようにしているのさ
我々人外が必要不可欠なものを取り扱うブローカーもいる
正体を隠すためにIDや身分証明書を偽装する専門業者もいる
身を隠しながら生きていくために、持ちつ持たれつなんだよ
そうしてコミュニティが出来上がった
…だからコミュニティに入らない君を危険視するものもいただろう…
斎原先輩のことですね…
……
彼女のことは許してやってくれよ
私が初めて君に会ったときに対処を失敗したせいだ
……?
実は私が君を見誤った
若い人狼は考えずに攻撃的に動く事が多いから、君もそのタイプだと思ったのさ
わざと煽って飛び掛からせようと仕向けた
しかし君は挑発に乗らなかった
喧嘩で負けると人狼は急に従順になるからなあ…
それを狙ったんだが…
ええ…?
ボクは自分で言うのも何ですが、結構体力はあります
この男、喧嘩強そうには見えないなあ…
ふふ、実は
君のお父さんもそのタイプだった
……!!
君が生まれる前、君のお父さんに会ったよ
人間の女性と結婚すると言う話を聞いた
彼はごく短期間だが、日本にいたんだよ
結婚の挨拶のために日本に来たそうだ
たしかにおとーさんはおばーちゃんに挨拶をするために日本に来たことがありました
当時私はもう少し東京寄りの街でコミュニティを作っていたんだ
そこで彼から人狼でも日本に住める方法はないかと相談されたんだが…
君のお父さんは一般的な人狼だ
変身後には人間性を一時的に失ってしまう
日本では狼化した人狼を閉じ込めておくような頑丈な建物を手に入れるには難儀するからな…
難しいだろうと答えたのさ
彼は妻となる女性とともにカリフォルニアに戻っていった
…子供が生まれたと便りをもらったよ
……
人狼と人間の間に子供が生まれるのは珍しいことだが、まったくないわけではない
しかしながら、生まれた子供がどう育つか、それは未知数だ
…しかし…
君の両親については、風の便りで聞いたよ
お悔やみ申し上げる…
……………
…君が母親の生まれ故郷であるこの街にきたことと、私がたまたまこの街でコミュニティを作ったことと…
神の導きかもしれないな…
吸血鬼が神と言うなんて…!
ボクが不思議な顔をすると、彼はちょっと照れくさそうにしました
ええ?
いいじゃないか、神を信じたって…
私だって、その昔は普通の人間だったんだぜ?
…まあ、今では神に顔向け出来ない生活をしているがな…
つづく