グリム兄弟は己らの収集した童話の世界を創りあげた。では、高名な彼も、己の童話の世界を持っているのではないだろうか。
もちろん、その答えはイエスである。
――未だ、兄弟との薄い関わりしかない世界。忠実さもないアドリブばかりの、即興劇のような物語の世界。
その世界の作成者の名は――シャルル・ペロー。
グリム兄弟は己らの収集した童話の世界を創りあげた。では、高名な彼も、己の童話の世界を持っているのではないだろうか。
もちろん、その答えはイエスである。
――未だ、兄弟との薄い関わりしかない世界。忠実さもないアドリブばかりの、即興劇のような物語の世界。
その世界の作成者の名は――シャルル・ペロー。
ある、びんぼうで、最近正妻を亡くした貴族。そこに、彼女は唯一の子供としていた。



……あ、もうこんな時間。


そろそろ猟から父が帰ってくる頃になる。
私は縫い物(と言っても手慰みのものだが)の手を止めて、玄関へ向かった。
隣には使用人。狩りの獲物が今晩の夕食となるのだろう。



おかえりなさい、お父様。





ああ。ただいま、わが娘よ。





そうそう、いい報告があるんだ。





何ですか?





あら、ここがあなたのお屋敷なのですね。





ふーん……思っていたより大きいのね。


父の台詞を遮って入ってきたのは、薔薇のように美しい女の人と、彼女にそっくりな女の子。二人はじろじろと家を見渡し、私を視界に入れると睨むような目になった。



……この方々は?





新しい、私の妻だよ。





え……。





ねえ、あなた。私、こんなにいっぱい人がいるのは苦手だから、使用人は全員解雇してちょうだい。あと、この部屋は娘の部屋ね。





そこ、私の部屋……。





あ、私このドレス欲しい。





お母様のドレス……。





みんな、仲良くしてやってくれ。


新しくやってきたお母様とお姉様は私の所有物だったものを奪い、代わりにつぎはぎだらけの服と、馬小屋の一角を与えた。
社交界に出るのは姉と母のみ。私は、毎日毎日使用人のような仕事を押し付けられて、行く暇すらない。
――そんな、日々が続いていた。



ねぇ、知ってる? サンドリヨン。こんど、王子様の婚約者を探す舞踏会があるんですって!





あら、そうなのですか。お姉様は王子様に歳も近いですし、期待が持てるのではないでしょうか。





王子様が婚約者探しねぇ……。長男じゃなかったのかしら。確かもう成人しているはずよね。
その歳になっても未婚で舞踏会での恋人探しとは……よっぽどの変人か、理想が高いのか、女嫌いか男色家辺りかしら?





そう? あ、言っておくけれど、あんたは出られないからね。どうせドレスもないんでしょ?





まさか! こんな格好で舞踏会にいけるはずがありません。





そーよね、そーよね。





舞踏会……か。どのくらい行っていないんだろう。





じゃあ行ってくるわね。





いい子にしているんだよ。


舞踏会当日。お姉様やお母様の服、髪等を整え、後になって加えられた御者が引く馬車に乗って行く四人を見送る。
空はオレンジ色で、ここからでも見える城は立派なものだった。



さて、仕事をしましょうか。


倉庫から箒や雑巾を取り出し、掃除を始める。今日はたっぷりと時間がありそうだ。面倒くさい作業をやった方がいいだろう。
夕飯はいらないだろうが、軽食を作っておいたほうがいいかもしれない。じゃあ、少し時間に余裕を持って終わらせられるようにしよう。
――そう、いつものように家事をしていた。



♪~





やあ、こんにちは。サンドリヨン。





誰っ!?


急に背後に現れたのは背の高い男。髪を長く伸ばし、何かを含んだような笑みをしている。
ちゃんと鍵も閉めたし、物音もしていない。なのに、この男は容易く侵入した? ああ、早くこの家の欠陥を探さないと! 何かあってからでは遅い。でもその前にこの男をどうにかしなければ……。



くらいなさいっ!





あ、ちょ、箒を振り回すなんてはしたなっ! いた、話を、ぐえっ、聞いてっ!





黙れ不審者! どうせ止めたらふしだらなことをするつもりでしょう!





誰がするかっ! こっちが何年生きていると思っている! そんな肉欲とっくの昔に消えているよ!





へ? ……おいくつですか?





さーて、どうだろうね。少なくとも、君のお父さんよりもは長生きだと思うよ。あ、見た目が若いって? そりゃあ魔法使いだもの。不老ぐらいお茶の子さいさいだよ。





ま、魔法使い……!?





そう、魔法使い。……ほら、見ていて。


そう言って不審者改め魔法使いは何も持っていない両手を私のほうに出す。



……アブラカタブラ





う、わ……!


たった数文字の言葉を言うだけで、魔法使いの掌の上に、黄色の炎が揺らめいていた。



熱く……ないのですか?





うん、全く。僕には感じられないから。あ、君には熱く感じられるよ。





なるほど……。





さて、本題に入ろうか、サンドリヨン。





本題?





まさかこの僕が、何の用もなしに人の家に入ると思う?





…………。





……否定してくれよ。





……はい。





それでよろしい。……さて、灰かぶり。君は、舞踏会に行きたくないかね?





いいえ。





うんうん、やはり行きた……ん?





行きたくは、ありません。





はいいぃぃ!?


