足早にヴァイネと王子との間に入り、彼を睨みながらシェーンはドヤ顔で言った。



ヴァイネ! 無事だったかい!?





え、ええ、無事よ。それよりもどうしてここに……?


足早にヴァイネと王子との間に入り、彼を睨みながらシェーンはドヤ顔で言った。



猟師の勘さ!





……あっそ。





……まったく。狩人は王子ではないはずだけれどね……。


やれやれといった風に肩をすくめる王子。片手の傷を痛がっているそぶりも無い。



王子! 何故ヴァイネや女の子達に、こんなことをしたんだ!





何故かって? は、ははははははははっ!


銃口を向けられていながら、モルタニスは狂ったように嗤い出した。



そんなの決まっているじゃないか! 彼女らを、僕と同じ時間を歩むようにするためだよ!





は?





え、と?


意味が分からない、と言いたげにポカンとする二人。冷静さを取り戻したモルタニスは悲しげな目で言葉を続ける。



まあ、君達には永遠の命を持つ辛さなんて分からないだろうけどね。





え、永遠の命? なによ、あんた。自分が不老不死とでもいいたいの?


持ち前の頭の回転の速さで理解したヴァイネは、半分信じられないように問う。その問いを待っていたかのように、モルタニスは悲劇役者のごとく叫んだ。



ああ、その通りさ! 僕は世界の管理のために永遠を与えられた! 今も、老いず死なない体のまま。その管理するべき世界が滅びたっていうのにね!





世界? 管理人? あの、え、他に世界があるの? 妖精郷とか、冥界とか、楽園とか?





そうだとも。ここ以外にも世界はある。そして、世界の作成者の勝手な意志によって不幸な管理人ができていく。





そう、例えば、作成者により、この僕が頑張って維持した世界の人々も、友も、全て死んでしまったようにね!





……さて。


喋ることは喋った、と満足げにモルタニスは笑った。思い人と結ばれる花嫁のような笑みだった。



なんだっ!


風が、粉雪を纏った風が吹いた。
それと呼応するかのように、シェーンとヴァイネの体を温度の無い氷が覆う。厚く、熊であっても逃れそうにない氷。



ああ、冥土の土産にいろいろと喋ってしまったなぁ。まあ、これで君達とはお別れになるから何を喋ってもいいだろうけれどね。





ここは僕の管理していた世界の残骸。ここで僕に勝てると思ったのかな?





ちっ……ごめんね、ヴァイネ。





……ねぇ





ん?





あんた、何様よ?





ヴァ、ヴァイネ?


腰から下が氷に覆われたヴァイネは、それにもかかわらず見下したような目をしていた。



あんたの話が真実だとすると、つまりあんたは余所の世界で働いてて、その世界が潰れたことになる。友人とも別れる。





あぁ、そうだ。酷いことにね。





そしてこっちの世界に拾ってもらって、結婚したけれど自分は不老不死だから相手だけ老いていく。結局また自分だけ残る。





……っ。そ、その通りだ。


苦しそうに視線をそらすモルタニス。ヴァイネは、とびっきりわざとらしく、演じているような、皮肉げな声で言った。



ああ、なんて悲劇の主人公! かわいそうな私! だから私は永遠を共に歩むために、愛しい人を眠らせて、老いないようにするの!





……って、





ばかばかしい。





何がだっ!





あんた何て言った? 管理人、作成者。あんたが不老だとしたら、この世界のそれらも不老じゃない。





あ……。





あら、あなたが一人ぼっちだったのは勘違いだったみたいね!





あ、あ……。そんなの詭弁に決まっている。ああ、そうだ。そうなんだ。


がっくりと項垂れるモルタニス。彼の内面を反してか、吹雪は止み、体を覆っていた氷も溶けていった。



どうせ私達は死ぬのよ。でも同時に知人の死もあるの。その量が無限に増えて行くだけなのよ、あんたは。





……。





そっか。僕は、寂しかったのか。


小さな、声がこぼれた。



さーて帰りましょ、シェーン。





え、あ、うん。そうだね、ヴァイネ。





笑い合った友が死に、愛を誓った人も死んで。自分の手元に残したくて。肉体に固執した。





……


帰ろうとするヴァイネの腕を、モルタニスはつかんでいた。弱弱しい、力のこもっていないそれは、力のこめられたものとは違った理由で振りほどけない。



なによ。まだ文句でもあるの?





……ヴァイネ。傍にいてくれ。





なんで殺そうとした相手の傍にいなきゃいけないのよ。





もう殺して防腐処理をして眺めようとは思わないよ。君の最後を見て、この物語を辞めて、友人と共に暮らすつもりだから。





だーかーらー、なんで私がいる必要が





好きなんだ。


言葉は、思ってもいなかった台詞によって止まられた。
え、今、何と……? 好き……?



え?





そもそもこの世界の製作者が、ぼくが仕事をするようにか毎回白雪姫が僕の好みの子ばっかりでね。





だから、っていうわけでもないけれど、あの、君の言葉をもっと聞きたいって言うか、何と言うか。


その、慌ててもごもごと言う姿が、さっきまでの彼とは全く似てなくって、生きている人間の感じがしていて、思わず、返事をしてしまった。



ふふっ、いいわよ。





本当に!?





自分で言っておいてなに驚いているのよ。





あ、うん。えっと、じゃあ……





よろしく、お願いします。





ええ、よろしく。


嬉しそうな、物語の続きを始める二人。その二人を横目に、一人、ほろりと涙を流す男がいた。



……俺、振られたってこと?





さびしがり屋の王子様と、元気な白雪姫は、幸せになりましたとさ。めでたしめでたし。





……彼も、気紛れで拾ってみたけれど幸せになれたみたいだね。





あ、もしかしたら、僕達のところに来るかもしれないのか。





たのしみだなー。





あ、そうそう。


ぱらっとページをめくり、映し出した光景が別の所に変わる。ここはどこかの森の中だろうか。手入れをされていない小屋の扉を、鏡を背負った男が開けていた。



ただいまー、今帰ったぞー。


兄には内緒で、こっそり白雪姫の物語に誘導してみた別の物語の登場人物。思ったとおり、イレギュラーを起こしてくれたようだ。



ふふふ、どんなお話に…………





うー、そろそろ寝るか。体調崩したら、また怒られちゃう。


ずびずびと鼻をちり紙でかんでから、ベッドに横になる。
兄は、もう寝ているだろうか。あるいは、もう増えぬ資料の下、自分の研究をしているのだろうか。



……はぁ。


生前では考えられないような時を過ごしているというのに、人肌が恋しくなる夜もあるものだ。
