4月最初の出社日
4月最初の出社日
コンビニの雑誌売り場でため息をつく小生。



あぁ・・・いつにも増して憂鬱だ・・


今日が月曜日、すなわち週刊誌『少年ジャンポ』の発売日じゃなければ絶命し兼ねない。
一冊の雑誌が小生の様な働きたくない勢の命を救っているのだ。
出版社の方々、頑張って下さい。
4月に似合わない高い気温と、強烈な直射日光が小生の体を攻め立て気持ち悪くなる。



ランナーズNo.1 埜下樹里(ノノシタキリ)
通称『ドージン』
同人活動が忙しいので定時で帰りたい系女子





今日も定時で帰って原稿しないとなんだけど・・


とある気がかりをかかえ、若干左右にフラつきながらトボトボと地下鉄の階段を下りていく小生だった。
◆
某IT企業 ドージンの職場
職場の自席についた小生。誰かを探すかの様に辺りをキョロキョロする。



今日から新しい『新人』が来るはず・・





出来るだけ絡まない方向で頑張りたい!!





おはよう、埜下君
例の新人の子を連れてきたよ





(びくっ!)


死にたくなる様な呪言を小生の背後からかけるカチョウ。背後にはショートヘアの小さな女の子が立っている。



おはようございまっす!!





オェーッ!!
なぜ連れて来た!?





っつ!!!!!?


小生達の様な廃人社畜とは違う、光の宿った目をする新人の背後に仏が見えた。



まぶしっ!!!!!!!!!!!!!!!





・・・





・・い、いかん、挨拶を返さねば・・・


何とか口から言葉を発しようとする小生。



・・お、おはよう・・(ボソリ)





えっ?





え、あ、ごめん・・おはようっ!!





はいっ!
おはようございます!!





休日はずっと引き篭もって同人誌を描いているから、月曜日は声が出ないわ・・・





それでなんだけど





彼女の現場教育担当を君にしたから





ふぁっくっ!!?





あと宜しくね♪


言いたい事だけ言いササッと消えるカチョウ。そして期待を含む様な目でこちらをみるヤルキ。



死ぬ気で働くので
宜しくお願いいたしますっ!!!!





ランナーズの好敵手? 小村月姫(コムラカグヤ)
通称『ヤルキ』
ニューカマー 死ぬまでヤル気系女子





は、はい・・





ゆとりなのに凄いヤル気がある子だな(偏見)
夢の定時ダッシュが危うい予感・・ハァ


◆
事務室の隅、小さな打ち合わせスペースでヤルキと話をする小生。新しく淹れたコーヒーを飲みながら平静を取り戻そうとする。



大学では化学を専攻していたので
情報系はあまり詳しくないのです・・





へ、へぇ~そうなんだ
まぁ業務は覚えれば誰でも出来るようになるから大丈夫だよ





何でもやるのでご教授お願い致します!!





ハハ、凄いやる気だねぇ





ハァ~おばあちゃんから教えてもらった自然薯(長いも)の掘り方しか教える自信無いわ


テーブルに頭をこすりつけ教えを請うヤルキの姿に、テンションが下がる小生。



まぁ、業務を一緒にやりながら色々教えていく予定だけど、今週はちょっと手がいっぱいで・・





なので、この技術情報について調べて
プレゼン用の資料としてまとめて欲しいな





勉強と技術情報の共有を兼ねてね


小生の見せたパソコンの画面にTCP/IP、SANといったIT用語が表示されている。ヤルキはそれらが何か分からないという表情だが、真剣に話しを聞いている。



資料ができたら、まずは私に対してプレゼンをしてくれればオッケーだから





だいたい今週の半ば位までに出来ればいいよ





なるほど了解です!!





大丈夫かな~・・違う意味で
あんまり頑張らなくていいのに・・・


一抹の不安を覚える小生だが、ヤルキはるんるんとした動きで自席に戻り早速作業に取り掛かり始めた。
そんな様子を見ていた一人の男。



くくく・・・ちゃんと課題を与えてコミュ障のお前にしては先輩らしく頑張っているじゃないか





ランナーズNo.2 持田速人(モチダハヤト)
通称『コモチ』
娘とお風呂に入りたいから帰りたい系男子





ああ言っておけば自分の仕事ができるからね・・





来週末が原稿の締め切りだから、せめてそれまでは帰りが遅く事は避けたいのだ





そういう事か
まぁ何にせよ見捨てずやってくれるとは





教育担当にお前を推した甲斐があったよ





ちょっ!? お前のせいか!!
カチョウが私に教育担当を任せたのはっ!





くくく、相変わらずベイビーだなドージン


12時間後



・・・・・・・





・・・・・・・





なぜこんな遅くに打ち合わせをしている!?


◆
遡る事、定時の30分前。小生は帰る作戦を練っていた。



そろそろ自然に定時帰宅する為の複線を貼らねばな・・





あのっ! 埜下先輩、課長!!
今ちょっと宜しいですか?





おっ? 何かね





にゃっ!?





資料作成が終わったので、今からプレゼンする為のレビューをさせて頂けませんか?





えっ!!
あの課題、もう終わったの!?





はいっ
お昼食べずにやりましたからっ!!





お昼はちゃんと取らなきゃダメだけど
頑張ったから見てあげようねぇ





え、あ、ちょっ・・


ここぞとばかりに会話へ割り込んでくる2つの影。



先輩らしく見てあげなさいよ
先輩らしくっ!!





ランナーズNo.4 山田華(ヤマダハナ)
通称『ビッチ』
アフターは六本木に繰り出したい系女子





初仕事で頑張ったねぇ





こいつらっ!!!





あっお二人にも会議参加通知をメールしましたので~





・・・





・・・


◆
ヤルキが頑張って説明している中、会議に参加しているランナーズの面々は焦りを感じていた。



さてと・・
何時までもここにいる訳にはいかないわね


チラリとコモチの様子を伺い、アイコンタクトを送るビッチ。



・・・(こくり)


コモチが小さくコクリと頷くのを見ると、誰にもばれない様に机の下でスマホを操作するビッチ。
手元が見えていないのに巧みに操作し、何者かへ電話をかけた。



おや?


スマホに着信があった事に気付いたコモチ。周りを気にしつつ、小声で電話に出る。



はい持田です
あっ! ど~も~お世話になっております





・・・?





あ~はいはい
えっ? 急ぎです?





あっ、いえ
大丈夫ですけど打ち合わせ中だったので・・





ちょっと待ってくださいね
今、部屋を出るので


止む得ずすいませんと言わんばかりの顔をして、そそくさと会議室から出るコモチ。
コモチが出て行った5分後位だろうか、ビッチのスマホにも着信が来る。



おや電話が





あ、お世話様です~おはぎIT様





・・・・・・・・?





あ、暫しお待ち頂けますか?
打ち合わせ中なので、いったん移動して自席に戻りますので


ここで話すとヤルキの邪魔になると言わんばかりの顔をして、そそくさと会議室からでるビッチ。



ふぅ


そう、部屋から脱出する為、全て二人の自作自演だったのだ・・



ヤルキには悪かったかな?





甘い台詞ね





定時後に打ち合わせなんて教育担当のドージンが止めるべき話だしね





そうだな・・では





仕事は明日にして、娘にいる我が家へ赴くかね!





仕事は明日にして、六本木の夜の街へ赴くかね!


帰宅するコモチとビッチ。
◆



はぁ・・はぁ・・





コーラが飲みたい・・
甘いモノが食べたい・・・





ランナーズNo.5 油谷慎吾(アブラタニシンゴ)
通称『コーラ』
定期的な糖分摂取を必要とする系男子


帰れない事に加え、糖分摂取が滞っている為、イライラが周囲に漏れ出している。



先日の健康診断で糖尿の疑いをかけられたが、この振え、間違いない・・・





コーラのやつ、発症してやがる・・
ヤルキがびびっているぞ?





私の説明が駄目で怒っているのかな・・





何かフォローした方がいいのかな





いやっ!
これは打ち合わせを切るいいタイミングじゃないか?





よ、よし・・・


覚悟を決める小生。



・・でして・・





あ、あの皆さんっ
まだ時間がかかりそうだし今日はこの辺で・・





おいっす!!!
やってるねぇ!!!!!!!


私の発言をなぎ払い、会議室に現れた先輩社員。



ランナーズの天敵 近藤爆(コンドウバク)
通称『サービス』
残業こそ至高の思考





お疲れ様です、近藤さん





悪いねェ~遅くなっちゃって





私に気にせず続けて続けて





あっ、はいでは・・





クソ・・なんてタイミングで入ってくるんだ





う~ん、いいねェ
新人らしく頑張っていてェ


ヤルキの話す姿を見て歓喜の表情をするサービス。



最初は残業してでも積極果敢に仕事をすべきだと思わないかね?
ねぇ油谷クン





ハハ・・最初が肝心という言葉もありますしね





うぜぇ・・
(イライラ)





まぁ私は10年目でも23時前には帰った事ないけど





さすがですね・・ハハ





ベテラン勢が先に帰らないと、後輩が帰り辛いだろ・・
(イライライライラ)





油谷君はまだやっていくのかな?





これからが始業時間ですよ・・ハハ





うぜぇぇぇぁぁぁああああああっ!!!





ちょっ!?





ドージン!?





9時に出社したら18時に帰らなきゃいけないんだよっ!!


サービスとコーラのやり取りにブチ切れた小生。



大人ならルール守れよっ!!





春コミも徹夜で並んじゃダメだろっ!!
それと同じだよっ!!!





・・・





・・そうですよね・・


意外な事にキレた小生へ声をかけたのはヤルキだった。おかげで我に帰る事が出来たが、ヤルキの表情には影が落ちており、今朝の様な光が一切消えている。



こんな時間にレビューだなんて・・





ぉぅぃ!!!!!!!?





!!!!!!





私が空気を読まずに変な事したからですよね





だから両親も "離婚" しちゃったんですよね・・





ちょっ!!?





私の事でいつも喧嘩していたし・・
そうですよね・・





こ、小村くん・・?





私みたいな人間がこんな素敵な職場に来ちゃダメでしたよね・・


そこで小生は覚悟を決めた。日々練習してきた伝家の宝刀を抜く事に。



す・・ す・・・・





・・・・・





・・・・・・おい、ドージン・・





・・は、っはは・・・





ま、まぁまぁ、あれだねェ・・





小村君もまだ慣れていないし・・





(ぐりぐり)





皆、疲れているんだよゥ
今日はお開きにしようじゃないかねェ


サービスのその一言に笑みを隠せない。が、能面を保ちつつヤルキの背中を撫でながら会議室から出る小生。



ごめんね





・・いえ・・





ではお疲れ様です


帰宅する小生、ヤルキ、サービス。



じゃあ課長、あと桐嶋さんも・・





自分もこのまま家に帰るので、お疲れ様です


そして、そのまま流れに便乗して帰るコーラ。
◆
会議室に取り残された一人の女性、それと課長。
課長は先ほどの茶番の中でも微動だにしていなかったが。



・・・





ランナーズNo.3 桐嶋もも(キリシマモモ)
通称『†輝螺羅†』(キララ)
某オンラインゲームの姫
ネットの世界に返りたい系女子





・・・ぐ





・・・ん?


先ほどからまるで反応の無い課長にそろっと近づく綺螺羅。



!!!!!!!!!!!!!?





ぐごっ・・・


反応が無い理由が分かった綺螺羅は胸を押さえて苦しみ出す、様な態度をとる。



この沸いてくるドス黒い感情・・





力への目覚めかもしれない・・


自身から生まれる黒い力を制御せねば、この世界は混沌に包まれてしまう、という妄想を馳せていた彼女は、その日終電を逃したという。
つづく...
