『白く堅き門番の先にある
真実の扉を開けよ』
「黒川。
どういう意味でしょう?
白く……、
の次の漢字が読めません」
「暗号を解く以前の問題だな。
『かたき』だ。
白くて堅い門番……」
「あ!
黒川、
きっと白石の部屋の事ですよ」
「いや、ちょっと待て。
白石君の部屋に入れるわけがないだろう」
「だから堅い門番なのですよ。
白石の部屋にレッツゴー!」
お嬢が部屋を飛び出した。
慌ててビデオカメラで撮影しながら、お嬢を追いかける。
早くお嬢を止めなければ……。
今まで白石君の部屋に入り、無事生還を果たした者は一人もいない。
青田君……。
お嬢が白石君に殺されてもいいのか?
「白石ー。
少しよろしいですかー?」
お嬢が白石君の部屋の扉を叩く。
「何ですか?
素手で扉を叩かないでください」
白石君が部屋から少しだけ顔を見せた瞬間、お嬢が扉の隙間に足を滑り込ませた。
「痛ッ!
白石、足が挟まりました。
早く扉を開けてください」
お嬢。
何処でそんな技を覚えた……。
「嫌ですよ。
何を言っているのですか?
足を引っ込めてください」
白石君がお嬢の足を押し出そうとする。
「ほんの少し白石の部屋を物色させていただくだけですから。
早く扉を開けてー!
痛ーい!
足がちぎれるー!」
「はあ? 物色?
黒川君。
ビデオカメラを持って何をしているのですか?」
「白石君、済まない」
「あッ! 天井に黒カビッ!」
「えッ?」
白石君がお嬢の指差した方を見た瞬間、お嬢は白石君に体当たりをして白石君の部屋の中に入り込んだ。
「白石君、本当に済まない。
後で青田君と謝りに来るから……」
すっ飛ばされて茫然としている白石君をビデオカメラで撮影しながら、お嬢の後に続く。
お嬢。
本当に何処でそんな技を覚えてくるんだ……。
「真実の扉……。
扉というだけあって、クローゼットを開ければいいのかな?」
「お嬢。
人のクローゼットを勝手に開けないでください」
「勝手にって……。
じゃあ、許可してくれるのですか?」
「するわけないでしょう?」
「それなら勝手に開けるしかないじゃないですか。
クローゼットの中にいかがわしい物でも隠しているのですか?」
「隠していませんよ」
「安心してください。
たとえクローゼットの中にいかがわしい物が入っていたとしても、私は誰にも口外しませんから。
男と女の秘密です」
「男と女の秘密って……。
変な言い方をしないでください。
それにお嬢が口外しなくても、黒川君のビデオカメラに映像として記録されるじゃないですか」
「黒川。
白石のいかがわしい物が映りそうになった時はモザイクをかけてください」
「了解」
お嬢が白石君のクローゼットを物色している間、白石君は観念したかのように、ベッドに腰かけてぐったりしている。
「うーん。
次の暗号どころか、白石のいかがわしい物すら見つかりませんね」
「当たり前ですよ」
白石君が俯いたまま、小さく呟いた。
「真実の扉って何でしょう?
黒川。
ヒントは無いのですか?」
「さあ……。
その暗号を作ったのは青田君だからな」
「真実って、人に秘密にしている本当の事ですよね?
白石の秘密って何だろう?」
「お嬢。
人が秘密にしている事を探るのは良くない。
この暗号は白石君の事では無さそうだ。
そろそろ他の部屋を当たろう」
「分かっていますよ。
青田だって、白石の秘密を私に暴かせるような意地悪はしないでしょう。
白石、ごめんなさい」
「……」
白石君は返事をする気力すら失っているようだ。
「白石。お邪魔しました。
私達は退散しますね。
……。
最後にこの引き出しを開けて行こうっと」
「あッ! お嬢、そこはッ!」
お嬢がタンスの引き出しを開けると、白石君が慌ててベッドから立ち上がった。
「白石……。これ……」
お嬢が引き出しの中から何かを出してきた。
それを見た白石君の顔が、みるみる青ざめていく。
「白石……。
これ、私が小学校の図工の時間に作ったパンダのキーホルダーですよね?」
「そ……、そうですよ?」
「白石がキーホルダーを集めていたから、白石にプレゼントしたのに……。
白石、いらないって。
こんなボロボロのキーホルダーなんか捨ててやるって……。
本当は捨てていなかったのですね……」
「捨てられませんよ。
捨てたらお嬢に呪われそうで」
「呪いませんよ。
あの時ショックだった分、今、少し嬉しいです」
お嬢が、そっぽを向いてしまった白石君を見て、黙ってキーホルダーを元の場所に戻した。
「あ。黒川。
引き出しの奥に暗号が入っていました」
青田君はキーホルダーの事を知っていて、わざとこの引き出しに暗号を入れたのだろうか。
それとも単なる偶然か?
『黒い魔神が眠る場所に、宝の在りかが書かれている』
「黒い魔神って……。
黒川の事ですよね?」
「まさか……」