古い屋敷だと思っていたそのお店は、意外にも内装はきれいだった。
古い屋敷だと思っていたそのお店は、意外にも内装はきれいだった。
アンティークな雰囲気でまとめられたカフェスペースは、こぢんまりとしたバーのよう。
狭いカウンターの奥にはこの間出会った導がいる。目が合うとにっこりと笑ってくれたけれど、常連らしきおばさまにつかまってあたふたと接客していた。



……このカフェスペースの奥に、談話スペースがあるわ。お悩みがあるならそこで聞くけれど、今日はどうする? お茶だけにする?


にこり、と笑みを浮かべる少女。
……この少女は何者なのだろう……
中学生くらいにも見えるし、大人びているようにも見える。
年齢を当ててみて!と言われても分からないと思う。



店長ー、自己紹介しましたー? 奏さんが困ってるじゃないですかー


へにゃ、とした声がカウンターから飛んでくる。店長と呼ばれた少女はそういえば!と言わんばかりに顔をパッと明るくさせた。



そう、それよ!何か忘れてると思ったら…御免なさいね。





私は水谷 阿良。年齢は23。この店の店長をやってるわ


敢えて年齢を言ったのは、きっと彼女の容姿から年齢を勘違いされることが多いからだろう。



えっと、一ノ瀬 奏です





お話は聞いてるわ!導の道案内をしてくださったそうですね、ありがとうございます。
導の給料から天引きにしておくから、ささ、一杯どうぞ♪





ちょ、店長!? 話違うじゃないですか!


淹れようとしていたコーヒーカップを落としかけ、寸でのところで見事にキャッチする導。
それを見てくすくすと笑いながらも、冗談よ、と言いながらカウンターに腰掛ける阿良さん。



どれがいいですか?ココアもありますよ





カフェラテが好きなので、カフェラテで





かしこまりました


導が慣れた手つきでコーヒーを淹れているのを見ながら阿良さんが話し始める。



ここのお店にはね、それぞれ悩みを持った人が集まるの。私も、導も、あの席に座っているおばちゃんも、……そしてあなたも。





昔この屋敷を持っていた人がね、いろんな人の悩みを聞いて答えを導いていった人で、きっとその人が悩みを持っている人を引き寄せてるんだろうって私は思うの


彼女が見つめる先には、古びた肖像画が置いてある。白い髭を蓄え、キセルをふかすその老人がきっと以前の屋敷の主なのだろう。
少し離れた席でコーヒーを飲むおばさまも、うんうんと大きく頷いていた。



人は何かしら抱えているものがあって、誰にも話したくない過去があって、仕事で嫌な思いをして、涙で枕をぬらす夜がある。けれど、いつかそれが報われる時が絶対にあると思う





私は、その『時』を待つ誰かの為に、このお店を開いたの。
…まあ、喫茶がメインになっちゃってるけどね


にこりと笑んだ阿良さんの顔には、どこか影が落ちている気がした。
続く…
