それはかくかくしかじか。ざっくりとした説明をお兄は黙って聞き続ける。



ところでなんで茜が仮想現実に来てるんだ? うち専用デバイス一個しかなかっただろ?


それはかくかくしかじか。ざっくりとした説明をお兄は黙って聞き続ける。



しかし見た目ただの剣に話しかける私ってなかなかシュールだ。





しかし見た目ただの剣に話しかける妹ってなかなかシュールだわー





……あ、なんかちょっといらっときた。
お兄と同じ思考の自分に。


自己嫌悪も込めて苛立ちまぎれに剣を殴る。でも悲しいかな仮想現実なので何の音もしなかった。



話聞いてる? お兄





うんじゃあこれからゲームはじめよっかー





話聞いてる!? お兄!?
お兄を探すっていう目的も終わったし帰ろうって話だったでしょ!





だーってさー。今まさにゲーム始める所で終わっちゃうなんてもったいないだろー。
最新型VR乙女ゲームですよ?
超有名タイトルの完全リメイク物ですよ?
追加要素だってシーン追加からミニゲームまでばっちりだよ?
声優さんも旧作と変わらぬ豪華とりそろえですよ?
店舗特典もフルコンプ取り置き済みで発売前に遊べるチャンスですよ?





……それに、茜とゲームできる機会って久々じゃん……





とりあえず最新型ってとこまで聞いたけど長すぎだし意味が分からないしスルーしました





せめて一番最後のデレはきいてー!?





葉隠さんも迷惑でしょう? トラブルも解決できたんですし早く本社に戻ってバグを見つけた方がいいはず





……





葉隠さーん?





……ああ、すみません、本部に連絡していたものですから。ゲーム終了の件なんですが、もう少し、せめて本編が始まってからにしてもらえますか?





ほらなー





アバタ―回収プログラムは本編中での使用を予想していたので、こんな早い段階で動くかどうか少し不安があるんです





そ、そうですか……





レッツスタート!


結局お兄の希望通りか……。あきらめの境地でもう一度目の前の汽車に近寄る。
今度こそ取っ手を引いて扉を開き、とんとんとステップを上って中に入る。



うん……なんかレトロな電車の中みたい





適当に席に座っておけばいいぞー





あれ、お兄の声がなんか変。
頭の中で響いてるんだけど





それはなあ。俺の立ち位置がシステムメッセージになってるからだ。
NPCの台詞と区別する必要があるんだ。





一時期あるもんだろ俺だけに聞こえる邪悪な声が囁く……みたいなやつ!





……ないよ!
それただの中二病だよ!





お兄ちゃんは万年中二病だもん!


つきあってられない。とりあえず一番奥のボックス席に座ると、間髪入れずに隣の車両をつなぐドアが開いた。



お隣、よろしいですか?


銀色の髪が腰辺りまでなびいているのがまず目に入った。そして白基調のレースが品よく入った豪奢な服装。なんかお嬢様然とした人だ。



あ、どうぞ……


そう言うと足元まで隠すロングスカートをすすっと動かし、しゃなり、そんな単語が思い浮かぶような仕草ですぐ隣に腰を下ろした。こちらを向いて、優しくほほ笑む。これは、まさしく美少女だ。それもお嬢様系の。



貴女も、学園の新入生ですよね?


え、新入生? 一瞬戸惑うと、頭の中にお兄の声が響いてきた。



もう忘れたのか!? 今日入学式っていう設定だろ!





設定言うな!





……あっ!





ばーかばーか。
お前の思考は読み取れるようになってるから、頭で考えるだけで結構会話はできるんだぞい。





う、うるさい!
それを先に言ってよ!





よーしよーし俺達の会話方法が分かったところで目の前の子に返事してやれ、困ってるから





……?





あ、えっと……私もそう、新入生! です!


お兄がルカと呼んだ少女は何事もなかったかのように頷いた。



そうですか、良かった。私も新入生なのですけれど、ここに来るまで知り合いも誰もいなくて。良ければこれから仲良くして頂けますか?





あ、よ、よろしく


やや改まって居住まいを正し、手を差し出された。



ルカと申します





あ、茜です


きゅ、と握手。
細くて白くてつべつべした手だなー。女の子ってこんな手してるんだー。いや、私も女だけど。ここバーチャルだけど。



あ、そこ向かい空いてる? 空いてるなら座ってもいい?


ひょいとまた一人、女の子がやってきた。



どうぞ。空いてますよ。貴女も、新入生ですよね?





そうなの! 私ステラ! よろしくね!


ルカにいざなわれた女の子は元気よく返事してうん明るい子なんだなと思った瞬間……。



うおおおおお! ステラたーん!





うわっ!?





ちょっとどういうこと。
なんでそんなにあらぶってるの。
あとステラ「たん」ってなに。





なぜなら! 俺を乙女ゲーマーにさせた原因が! ステラたんだからです! それはゲームショップでのことだった。俺はなんか面白いゲームないかなーなんて棚をあさっていたその時、ステラたんがいたのです。パッケージの中に。ステラたんを見た瞬間俺の全身に電撃が走り(以下略)





あ、もういいから。黙れゲーオタ兄貴。
あとステラ「たん」ってキモい


いきなり黙り込んだ自分を気にすることもなくおしゃべりを続ける二人を見て気づく。



……この二人、ゲームのパッケージにいた子達か。





当たり前だろ。
最初にルカとステラたんとアキラ、誰かを主人公で選んだら残りの二人は友人キャラとして出てくるんだよ。
だから俺はステラたんをPCに選ばなかったんだ!


へえ。じゃあこの二人が主人公である可能性もあったわけか。いきいきと動く二人を見てもAI(人工知能)で行動してるなんて全然わからない。



……あー、
お兄が分かり易い所にいてよかった。


