教室に戻ると、案の定だった。

クスクス・・・

ひそひそ・・・

スマホをいじってる奴が何人もいる。

オレはため息ひとつ
まっすぐ教壇に立った。

おい。これ書いたやつ――堂々と俺と勝負しろ!

……シーン

なんだよ、誰も出てこねぇのか?

お前ら、バカヅラ並べて本心隠して……今日もお友達ごっこか?

ひとりひとりの顔を見る

視線を逸らすやつ

笑いをこらえるやつ

スマホを握りしめてるやつ

ダチが傷ついてんのに、
自分が危なくなりゃ即効で四方八方に逃げる……お前ら、その根性じゃゴキブリと何も変わらねぇな!

ざわ……ざわ……。

おい、みんな一人ずつスマホ見せろや

ざわめきが一気に強くなる。

書き込みしたやつ、全員俺と
タイマン勝負だ!逃げんなよ?

カシャ――

誰かがまた撮ってやがる

だが関係ねぇ!

ほら、どうした。自分がやったことにケジメもつけられねぇのか?
ゴキブリみたいに、また壁の裏に隠れるか?

覚悟決めて俺の前に出てこい! 自分の尻ぐらい、自分で拭いてみろや!!

教室が一瞬で冷え込んだ

……じゃあ、一人ずついこうか

目の前の男子の襟をつかんだ。

ひ、ひぃっ……!

その時だった。

あなたにそんな権利ないはずよ!

女子の鋭い声が響いた。

そ、そーだよ! 人の持ち物を勝手に見せろなんて、お前にそんな権利あるわけないだろ!

権利だと? ――なら聞くぞ

俺はにらみを利かせて
教室を見回した。

葵の権利はどこに消えた? 俺の権利はどこ行った!?

普通に学校来て、ダチと笑って、バカやって……そんな当たり前の権利を、
お前らが勝手に踏みにじったんだろうが!

誰も何も言わず。

ただ、目をそらしているだけ。

オレはな――親でも、ダチでも、涙流す姿はどうしても黙っていられねぇ

どんな時代でも、筋を通すのが俺のやり方だ。それが――

番長の流儀よ!

……ざわざわ。

番長……?

ぷっ、番長って何それ……?

誰かが吹き出したのを皮切りに
教室中が笑い始めた。

「ヤバ!」

「ダサ!」

「マジかよ、昭和かよ」

「番長! 頼むからこれ以上
笑わせないでくれって!」



――な、なんでだ……? なぜ、笑う?

こ、この野郎……!

怒りが頭を突き抜ける――が、
その瞬間。

キーンコーンカーンコーン……

始業のチャイムが鳴り
教師が教室に入ってきた。

……どうした、席につけ

杏奈、もうやめて……!

結衣が背後から、ぐっと
俺の腰に手を回して止めてきた。

でも、もう止まらねぇ。

こいつら、腐ってやがる……

俺は机に拳を叩きつけ
椅子に座らずに振り返る。

……葵が、いない。

俺は机からカバンを取ると
無言で教室を出ようとした。

おい、森下、どこ行く?

便所だよ

番長だってさ、マジウケる〜!

くだらねぇ笑い声が背中を突き刺す。

オレは振り返らねぇ。

ただ拳を強く握りしめて
教室のドアをガラッと開けた。

(クソが……笑いたきゃ笑え。オレはオレの道を行くだけだ)

廊下を踏み鳴らすように歩き出す。

葵を探そう。

女子トイレの一番奥。

落ち込んだ時の逃げ場なんざ、
だいたい分かってる。


――入るのは気が引けるが、仕方ねぇ。

……葵、出てこいよ

(コンコン)

返事はない。

掲示板のこと、気にしてんのか? オレは全っ然気にしてねぇぞ。
悪いのは、コソコソ陰で書いてるアイツらだ。
お前が隠れる必要なんて、どこにもねぇよ

……書いたやつ、見つけてオレがぶっ飛ばしてやっからさ

――ガチャ


トイレのドアが開き、葵が出てきた。

そうだ、屋上でも行ってさ――

その瞬間

パァン!!


平手打ちが飛んできた。

な、なんで……?

いい加減にして!!

アンタだって書いてたんでしょ、私のこと
わかってるんだから……! コソコソ笑ってたくせに……
私が標的の間、自分に火の粉が飛ばないように、無視してたじゃない!

葵……

――そうか。
オレは傍観者じゃなくて
加害者の一部だったのかもしれねぇ。





出ていこうとする葵の手を
思わず掴んだ。

待ってくれ、葵!

パァン!

再び平手打ち

な!?

何よ! 今さら正義ヅラして
かっこつけて……バカみたい!

オレは、にやりと笑った。

そうか……ならこれで少し頭冷やせや

トイレの蛇口をひねり、
水道のホースから水をかけた。



ピシャー!!

やめて!! このっ……!!

うわっ!

葵が怒りのままにオレの髪を
掴んで、乱暴に揺さぶった。


そのまま押し倒され
廊下に転げ出る。

2人でもつれあいながら
トイレから廊下へ――


葵が馬乗りになり、オレの胸を
叩き拳を振るってきた

私が……私が一体、何したっていうのよ!!

泣きながら、叫びながら
葵はオレを何度も叩いた。

オレは何も言えずその痛みを
涙を、ただ受け止めるしかなかった。

第6話 令和の番長見参だ!

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