今日もいつものように、守はスーパーの
パートに向かった。代り映えのない日常。
無機質なレジ台に立ちながら
ただ目の前の仕事を機械的にこなすだけ。
誰とも話さず、周囲の雑談や笑い声にも反応しない。大学生のバイト仲間たちが、
時折こちらを見ながら何かひそひそと
話しているのも、気にすることはなかった。
守にとって、この場所はまるで自分が
影のように存在しているだけの空間だった。
今日もいつものように、守はスーパーの
パートに向かった。代り映えのない日常。
無機質なレジ台に立ちながら
ただ目の前の仕事を機械的にこなすだけ。
誰とも話さず、周囲の雑談や笑い声にも反応しない。大学生のバイト仲間たちが、
時折こちらを見ながら何かひそひそと
話しているのも、気にすることはなかった。
守にとって、この場所はまるで自分が
影のように存在しているだけの空間だった。
仕事中、ふと主任に言われたことを思い出す
藤井、有給休暇が溜まってるだろ。
ちゃんと使えよ
あ、はい。
はぁ~有給申請出しに行くか
(何の予定もないけど)
重い足取りで店長室へと向かい、
ドアの前で一呼吸置くと、
コンコンと軽くノックした。
「どうぞ」
中に入ると、店長と
パートのおばさん(田中さん)が
親しげに話し込んでいた。
部屋に漂う雰囲気が妙にくつろいでいて
守はなんとなく違和感を感じながらも
用件を伝えることに集中する。
藤井君おはよう~
おはようございます
店長、有給休暇の申請を持ってきました
おう、そうか
店長は気の抜けた返事をし、
申請用紙を無造作に机の上に投げた。
・・・
その対応に少し嫌な感じがしたものの、
守は特に何も言わず、
ただドアの方に向きを変えた。
無言で部屋を出ようとしたその瞬間、
ふと背中に何か不快な気配を感じ、
つい後ろを振り返った。
ちらり
そこには、店長がニヤニヤしながら
田中さんのお尻に手を滑らせて
いる光景があった。
へへへ
もう~
気持ちわりぃ……
守は表情には一切出さず、
そのまま何事もなかったかの
ように店長室を後にした。
冷たい廊下を歩きながら、守は自分の
孤独な生活とこのパート先の
歪んだ日常に改めてため息をついた。
何も変わらない。
ここでは自分はただの空気だ
守がレジに戻ると、パートの金子さんが
近寄ってきた。
藤井さん、田中さん見なかった?
田中さんなら……
店長に尻を触られているなんて
言うわけにはいかない。
あの二人がどういう関係であれ
自分には関係のない話だ。
さあ、見てないです
困ったわねえ、すぐ商品を出してほしいんだけど、藤井さんお願いできる?
はぁ・・・
チッ ついてないな……
渋々、倉庫へ向かうと、思いがけない光景が
目に飛び込んできた。
そこには、紗良がいたのだ。
脚立に登って棚から商品を降ろしている。
紗良の姿に驚いた守は、一瞬、言葉を失った。
さ、紗良ちゃん!
藤井さん、田中さん
見てませんか?一緒に商品を
出すように言われているんですけど
あ、えっと……
田中さんの尻のおかげで、まさか紗良ちゃんと一緒に仕事ができるなんて!
?
田中さんは……
守がようやく口を開きかけたその瞬間、
大学生のバイト・佐々木が倉庫にやってきた。
紗良ちゃん
大丈夫?僕が手伝うよ
え・・・でも
大丈夫だよ、僕が下で押さえておくから
佐々木は脚立ではなく、紗良の足に手を伸ばした。
おい、こいつ
どこ触ってるんだよ!!
怒りが込み上げてきたものの
守はその場で動けずにいた。
普段から自分の存在感が薄いことを
思い知らされながらも
目の前で繰り広げられる状況を
どうすることもできない自分に
無力感が押し寄せてきた。
藤井さん、ここは俺が手伝うからもういいっすよ。
(ニヤニヤ)
い、いやでも……
いいって言ってるだろ!
・・・
その時、紗良が脚立の上で少しバランスを崩した
あ!
しっかり押さえててあげるからね
佐々木はすぐに紗良の両足に抱きつき
太ももに顔をうずめる。
紗良ちゃんの太ももに!!
店長の趣味で、
女性の制服は短いスカートだった
紗良は見えないように短パンを履いていたが
佐々木は紗良の太ももにしっかりと顔を埋め、
まるで楽しんでいるかのようだった。
さ、佐々木さん、商品が取れないから……
う、うん
コイツ、紗良ちゃんの足で興奮してる……!
佐々木さん、もう大丈夫ですから
んふー!んふー!
よ、よせ、佐々木!紗良ちゃんが嫌がっているだろ……
い、いや……
しかし、守の体は動かなかった。
紗良がこんな目に遭っているのに・・・
昨日のゲームの光景が頭をよぎる。
あの不気味な触手に絡み取られ、
何もできずに抵抗もできなかった、
あの恐怖が蘇る。守はゴクリと唾を飲み込んだ
や、やめ……
その瞬間、勢いよく倉庫のドアが開いた
何やってるんだよ、佐々木!!
天城が鋭い目で佐々木を睨みつけ、
彼を力強く引き離した。
なんだよ、
手伝っていただけだろう!!
佐々木は恥ずかしそうに
倉庫から走って出ていった
紗良、商品なら俺が取るから、
もう戻って
うん。。ありがとう
倉庫に残ったのは、天城と守だけ。
天城が冷静に守を見つめる
守さん、紗良が嫌がっているのに、どうして助けなかったんですか?
その言葉が守の胸に重くのしかかった。
言い返すことはできず、
ただ口を閉ざしたまま視線を落とすしかなかった
・・・
ただ見てるだけだったら
あいつらと一緒ですよ
その言葉はまるで、鋭い刃のように守の心に
突き刺さった。天城の言葉は正しい。
紗良が嫌がっているのを目の前で見ていたのに、
自分は何もできなかった。
ただ傍観していただけだ。
守の胸の奥に、自分の無力さと
情けなさがずっしりと沈み込んだ。
あ、すみません。
生意気なこと言っちゃって……
いや、君は何も悪くない。悪いのは僕だ。君の言う通り、
僕はただ見ているだけの無能な
人間さ
しかし、コミュ障の守は言葉にすることができず、
ただ天城に向かってその思いを目で訴えた
ありがとう天城君
すごい見てる
さ、さあ
商品出しちゃいましょう!
天城君っていい奴だな。
こんな僕にも気を
使ってくれるなんて……
その気持ちを抱えながら、
守は無言で商品出しに取り組んだ。
作業は黙々と続くが、守の心には少しだけ
いつもと違う感情が灯っていた。
つづく