04 洞窟に潜む魔物 その2



だいぶ奥まで来たが。


巨躯。存在感。大。
閉塞感ある洞窟の奥には、端の見えぬほどの広大な広間が広がっていた。その中央で、まず目を奪われたのが、人の身の丈の3倍はあろうかという大型の魔物。



どうやらあれがボスのようだね。





大猪。押しつぶされてはひとたまりもないでしょう。





手強い相手だ。苦戦は避けられないだろう。





でも、やってくれるね、ビエネッタ君。





苦境は、わたくしが躊躇する要素ではありませんから。





――――行きます。





BOOOOOOOO!!


すぐにこちらを察知した。緩慢な闊歩から一転、筋肉が緊張するように盛り上がったかと思うと――魂を揺さぶる威嚇! 並の人間なら足がすくんで立ち止まってしまうだろう。そしてそれは致命的なラグとなる。
だが、人形であるビエネッタは意に介さない。振るわれた巨大な前足を横ステップで避け、更に本体へと肉薄する。



―――――!





むぅ……!


攻撃直後の硬直を狙ったはず。しかし恐ろしいほどの速度で体勢を立て直し、再度の追撃。ビエネッタの卓越とした斬撃を、単純な物量で無効化する大猪。
そしてそのまま真横から津波のような平手打ち。 ビエネッタは為す術もなく吹き飛ばされる……
と思いきや、動かない……!



――――


火花! ビエネッタの足元で小さな爆発。起爆剤たるビオラ=エイルを体内で爆発させ、反発力の足しにしたのだ。
ビエネッタと、サイズ感のかけ離れた大猪のぶつかり合い。絵面だけみれば冗談のような均衡がそこにあった。



ビエネッタ君! ビオラ=エイルは君の活動を支える原動力でもある。使いすぎに気をつけなよ!





承知。つまり、使い切る前に倒せばよい話。





GUOOOOOOOOOO!!


押し付けられた前足。僅かにバランスを崩して隙を作る。体重を乗せていた大猪の前足がよろめく、そこに刺突。己の力の勢いのままに、深々と刺さる剣。
あまりの痛みにのたうち回る。これは痛い。
有効打だが、そのおかげで敵の動きは滅多矢鱈。動きの読めぬ行動ほど恐ろしいものはない。距離感を読みかね、足をもつらせ背中から落ちる巨躯。
その下にはビエネッタがいるのだ――! 避けるなど間に合わぬ。わずかに首を上へと向け、



ビエネッタ君……!


巨体の下からは、動かぬ腕が、はみ出して、



あ……あ……そんなばかな……





BGIIIIIIIIIIIIIIII!!





討伐完了しました。





ビエネッタく~~ん! よかった無事だったのか~~!





いえ、無事ではありません。





!!


見れば、利き腕をなくし、ボタボタと黒い液体を流すではないか。



噴 水 !!





たた、大変だ! さっきの衝撃でちぎれてしまったのかな!? 修理をしなくては!たは!たは!


あた
ふた



暴れないでくださいませ。腕が取れるなど日常茶飯事ではないですか。





日常茶飯事になってもらっては困るのだけどね!?





交換すれば済む話。わたくしは人形なのですから。





…………


切断部から見える太い主管を丈夫な糸で縛り、ひとまず液体の流出を防ぐ。粘性の高いクリームで患部を塞ぐ。内部には、空気に触れるのを良しとしない部分が存在しているのだ。



そういうのは……あまり聞きたくないな……





君の体の一部とて、僕には大切なんだよ。軽々しく、交換すればいいなんて言わないでくれたまえ。





失礼しました。それは命令でしょうか?





いや――――


溝は存在する……決して狭くない確かなものが――



よし、魔物は倒したが、僕の目的はこれで終わりではない……





魔物の大量発生、それには理由があるはず。おそらくあのボスだけではない。


大猪の死骸を乗り越え、奥へと進む。



うぉんもお!?


スタスタとしたファンバルカの邁進は、突然空中に出現した謎の模様に阻まれた。盛大に尻もち。当のファンバルカは、転んだのにニコニコと嬉しそうだ。



うへへへ見たかいビエネッタ君。この念入りな結界、間違いないね。





また何もないところで転んだのですか。





視線が限定的すぎやしないか。きちんと結界を見てくれよ。





――魔。どうすれば。


試しに斬りつけてみるも、霞のように刃が素通りし、傷つけられぬ。



一筋縄では行かないか。だが、魔王ファンバルカを舐めるなよ。


袋を取り出し、中の粉を――ババッと宙に舞わせる。



モスメリディアの鱗粉だ。魔に反応し、ある変化をもたらす――


粉に触れた魔法陣が、バチバチと小さな火花を散らす。



今だビエネッタ君!





うわたっ! ちょっと待ってくれたまえ! まだ僕が近くに、わ!


斬撃は、早い。まだ言い終わらぬうちに。
先程は通らなかった刃が、魔法陣を真っ二つにした!
禍々しい、虹色。
魔法陣の奥には、怪しげな宝石が隠されていた。



――やはり。





「千年の呪詛」。こういった溶岩洞窟には、世の恨みつらみが堆積し融合し、このように実体を形成するという。





マグマ質の中で生成され、そこにある間は他へ大きく影響することはないが、ひとたび外へ出されれば……





今回のように、大量の魔物発生装置となるわけだ。





では破壊しましょう。





おっと、なんのために苦労したと思っているんだい?





これは君を人間にする秘技を使うために……必要な秘宝だ。





壊してしまうなんてとんでもない。





秘宝は残7つ――これを集めれば君を人間にすることができる。





秘宝、それがお前の目的か?





!





ようこそいらっしゃいました。お茶をどうぞ。





いらん!


鮮やかに決まる拒絶。



お前の差し金か? 俺をあざ笑って楽しいか!





いや、僕もお茶を出すとは思わなかったけどね。





……それはそうと、どうやってここまで来た!? 道はふさがっていたはず!





フン、あの程度で俺を止められると思うな?


再び場は不穏な空気に――
続く
