暗躍展覧会 その4
ファバナ大講堂
収容人数1万人を誇る、リーグレンの中でも有数の施設。舞踏会やセレモニー、大討論会など、年間を通して様々な催しに利用されている。
今夜、この大講堂にて!



皆様、お集まりくださり誠にありがとうございます。





此度の展覧会の目玉は、各国より収集した、名品・珍品の数々にございます。ぜひ、お近くで御覧ください……!


博覧会の前夜祭が行われているのだ!



さて……マルコック卿が関わってるって言うから、念の為潜り込んでみたけど……





警護の人もたくさんいるみたいだし、悪事なんてできないわよね。考えすぎだったかも。





暇だしお料理でもいただこうかしら。





少しは緊張してくださいってば。





はっ……はっ……


夜の王都をひた走る一騎!



うぐ……傷が痛む……でもそんなこと言ってられない……





あのリストには、マルコック卿の依頼を受けた請負人ばかりが載っていた。しかも、手紙の日付はずっと前のもの。





普通、ああいった依頼は自由公募。誰が受けるかなんて、事前にわかるはずがないのに……





つまり、彼らは、選ばされていた? 自分で選んだように思わせて予め決まっていた?





一方で――今回みたいな、イベントの警備は部長の人選で人数を確保されるわ。その2つが、つながっているとしたら――





都合のいい人ばかりを、警備に当てている可能性がある。





作為的すぎる……何かあってからじゃ遅いわ。急がないと!





あっ あれって軍人のフィリップ将軍じゃない? あっちの貴族も、なんかの祝典で見たことあるわ。





わりと大物も参加しているみたいですね。





さて……あたし、ちょっとブラブラしてくるわね。





あっ そうやってサボるつもりでしょう……全くもう……





何を仰るの。偵察と言ってくださる? ホホホ。





もう……行ってしまいました。別にいいですけど……





堅苦しい場は、あたしには似合わないわね。





あたしなんかは場末の酒場とかで、酔っ払いをあしらってるのがお似合いよ。





いや待った待った……貶めすぎたわ自分……


言葉は言霊。戯言だとしても気をつけなくてはならない……!



――!


廊下を歩いていたククリは違和感に気づく。誰も、歩いていないのだ。――そこに。



…………





…………


歩み寄る二人。挟み撃ちである……!



なにか用かしら? お二人さん。


問いかけに返事はなく。その目に生気はなく、心あらずといった風情。



――――





ちょっ……冗談じゃないわ……!


剣戟を巧みな足さばきでいなしていき、なんとか距離を取る。



吹き飛べ……ハッ!


距離さえ確保できるのなら中遠距離武器に敵うものなどない……!



――


男は夢遊病のような動きで回避!



嘘でしょーーー!?





――――





しまっ……!


そのすきに、背後から迫っていたもうひとりに羽交い締めにされてしまった……!



・ ・ ・


この上ないピンチ……!



さっっっせるかああああーーッ!


剣を弾き飛ばし、相手のみぞおちに石突を叩き込む!



ベルティーナさん……!?





はあ、はあ、危ないところだった……





助けてくれてありがと! でもこれ、一体どういうこと?





多分、わたしのせいだわ……ごめんなさい!





こっそりギルド内部を偵察していたつもりが、とっくにバレていた……踊らされていた……





おそらく、わたしが接触したあなた達もターゲットにされてる!





ちょっともう、そーいうのやめてくださるーー!?





とにかく、彼らを、





(痛ぅ、さっきの怪我が……!)





――――


ゆらりと近づく女!
やじりの代わりに、特大の重しのついた矢が脳天を直撃!



これ、やっぱり用意しとくと便利ね♪


動くもののいなくなった廊下で、二人は一息つく。



泳がせられてたなんて、委員長サマともあろう方が迂闊ねえ。





……まあ、起こっちゃったことはしょうがないわ。それで、こいつらは何?





見たとこ、警備の人間……ギルドのメンバーよね?





ええ……わたしの顔見知りだわ。明らかに様子がおかしかった。





何らかの術にかけられているのでしょう。





アルマド!





先程リチャードから連絡がありました。





スネイクが敵の術中にはまり、心を操られたようになってしまったと……





何やってんのよ……





それじゃ、マルコック卿の依頼を受けたものは、みんな操り人形ってこと……?





そんな強力な術なんて……





条件付き感応式……催眠術のようなものなら、ありえます。





で、おりこうアルマドちゃんなら対策もわかったってことよね?





……残念ながら。





この術にはおそらくキーワードがある。それがわからなければ解くことはできない。





まじですか。じゃあ、全員気絶させるしかないってこと?





クッ わたしの仲間たちに、なんてまねを……





ともかく、マルコック卿を問い詰めるわよ!


足を踏み出したその瞬間!



…………





――――


またしても立ちふさがる、新たなギルドメンバーたち!



だああぁもっ! 操られすぎでしょおマヌケちゃんたち。はっ倒すわよ!





これだけ送り込んで来るということは、広間に近づけさせたくないのかも……





ベルティーナさん! 先へ行ってください。ここはわたしたちが!





ありがとう、助かる……! あと、お願い。もし、もし、……





殺すなって言うのでしょ? 大切なお仲間ですもんね。


重し付きの矢を取り出しつつ……!



できるところまでは、やってあげるわよ!





はっ はっ


会場をひた走る、ひた走る……! そしてついに――



おやこれは委員長殿。見回りですかな? お勤めご苦労さまです。





とぼけないで! あなたの所業はすべてお見通しです!





怪しげな術で、ギルドの依頼請負人を操っていますね! すぐにやめなさい!





術ですって!?





これは奇っ怪! 面白い冗談を言われますな!





珍品の集まる此度の展覧会とはいえど、言動まで珍妙にしていただく必要はないのですよ。





あまりおかしなことばかり言っていると、一緒に展示されてしまいますよ。ホッホッホッ。


しらばっくれる気か……!
続く
