31 動き出すふたりの時間
31 動き出すふたりの時間
 視界に映るのは、先ほどと同じ部屋。
 だけど、側にいるのはルイだった。
 コレットの姿も、ナイトの姿も見当たらない。



戻ってこれたのか?





うん





あのさ





?


 声をかけられて顔を上げる、視線と視線が絡み合う。
 コレットに言われた言葉が引っかかって、少しだけ顔が熱くなっていた。
 エルカの表情の変化にルイは気が付いていない。
 彼は思いつめたように、声を絞り出す。



僕には、もう資格がないかもしれない。それでも、言わせてくれ


 真剣な眼差しを見ていると、エルカも背筋を伸ばしてしまった。
 ルイが何かを言おうとしている。
 だから、エルカは息を飲んでその言葉を待っていた。



エルカ…………もう一度、友達になってくれないか?





え?


 何を言われるかは予想出来なかった。



今度は、絶対に傷つけたりしない


 



…………


 差し出された手をジッと見据える。
 その手が震えていた。
 この言葉を発するのに、どれだけ緊張しているのだろう。
 エルカが何も言わないのが拒否の意味だと感じたのか、ルイは眉尻を下げる。
 そして、悲し気な表情を浮かべた。



……嫌なら、それで構わない。僕は二度と君の前には現れないから





……っ


 
 その手をエルカは力いっぱい両手で包み込む。
 突然のことだったので、ルイは大きく目を見開いた。
 二度と会えないなんて、そんなのは嫌だからエルカはその手をキツく掴んだ。



そんなこと言わないで欲しいの





え? いいのか


 諦めていたのだろう、ルイが茫然としたままエルカを見る。
 そんなルイの反応がエルカは不満だった。



良いも悪いもないよ。だって私たちは、《《喧嘩をしただけ》》でしょ





……





ただの小さな喧嘩だったんだよ。それが、どうして二度と現れないだなんて酷い事を言うの?


 そう言ってエルカはルイを掴んだ手を離す。



僕は君を傷つけた





私もルイくんを傷つけている。確かに、すれ違いは大きかったけど。私たちの間に出来た溝は深いかもしれないけど、





そんなの、今の私たちになら埋められるでしょ





……………そうだったね





居なくなるなんて言ったら、嫌なんだから。私……今度こそ本当に嫌いになるよ。恨んで、憎んで、化けて出てやるんだから





ごめん……





だから、違うよね。こういう時は


 
 エルカはルイに手を差し出す。
 それを見たルイが、大きく頷いて見せた。



仲直りだな





だよね


 エルカはルイの手を握り。ルイはエルカの手を握った。
 仲直りの握手を交わし、二人の友情は再び始まるのだ。



それじゃ、戻ろう


 ルイの声にエルカは大きく頷く。
 そして手元に戻って来たばかりの本を抱きしめながら目を閉じる。



私の棺の扉、その姿を見せて!


 
 
 
 
 
