その彼女の言葉に慌てて二人は手を横に振って”いえいえ。そんなことはありません”と反応を示した。
スカーレットはため息混じりに少し愚痴を吐いた。自分からすれば、ファノンの言葉はもう聴き飽きたという感じに。



アネット~!





スカーレット様!こんなところまで?





ナツキから、二人が”女神の森”へ向かったと聞いて…。もしかして、お邪魔だった?


その彼女の言葉に慌てて二人は手を横に振って”いえいえ。そんなことはありません”と反応を示した。
スカーレットはため息混じりに少し愚痴を吐いた。自分からすれば、ファノンの言葉はもう聴き飽きたという感じに。



ファノンが宮殿から出るなってうるさくて。私と”女神の皇子”であるあなたと接触させたくないと思っているのだろうけど。彼女は今は外で仕事中ね。ったく、だから、私は女王の座には全然興味ないって言っているのに…


エリオット・アルテミスは彼女、スカーレット・エクレールのことは知っている。この女性は遺伝子学の権威の女性で、実は遺伝子学会で話題の論文を書いたのは実はこの女性だったのだ。
だが、面と向かって話したのは、今回が初めてみたいな感じだった。意外と彼女は話してみると気さくな人物だなと彼は思う。



本当にごめんなさいね。エリオットさん





え?





ファノンやアリエルがあなたに酷いことをしたことを。本来なら、あなたは無関係なのに我が家の相続問題に巻き込んでしまって





あのさ。初めてまともな、普通の人の意見を聞いたような気がするよ





エクレール家はおかしいから。色々な意味で


彼女、スカーレットは徐々に彼女ら、エクレール家の話を彼に聞かせる。



特に先代の女王の”女神の皇子”の血への執着は凄まじいものだったわ…


更にここで衝撃的な過去を話すスカーレット。



実は、ファノンの父親も、”女神の皇子”の遠縁にあたる男性だったの。もちろん、先代の女王の一言で政略結婚





初耳だね





ファノンの両親の話は、あの”背徳の宮殿”ではタブーだからね





タブー……。つまり重い禁忌か





そういうこと





そう言えば、ファノンはあの時、何か思いつめた顔をして言っていたな。”私達の親の世代は色々不幸が多かった”と。一体、彼女に何が降りかかったのだろうか?それが、今の張り詰めた生活に繋がっているのか…?





………


当のアネットもそれには、涙をこらえるのが精一杯だった。必死で溢れる涙をこらえようとしている…。
スカーレットは更にここで開けっ広げにアネットに関する”秘密”を暴露した。その真紅の瞳は少し冷たい輝きが宿っている。



ついでだから、エリオットさんに秘密を教えてあげるね。実は、アネットは~





スカーレット様





学生の時、”女神の皇子”オタクだったの!





は!?





いつものように、学校から戻ると、神殿内に籠って文献を読み漁って、私とかファノンが”一緒に遊ぼう”って誘っても無視





スカーレット様~!恥ずかしいです~!!





古文書の中に出てくる幻獣のような”女神の皇子”に憧れて、会いたくて、そして本物の”女神の皇子”に実際に会えて、一番嬉しかったのはアネットじゃないかしら?





スカーレット様~。もうこの辺で勘弁してください……





もう、顔を真っ赤にして照れているの?可愛い~


彼女は、スカーレットは照れて何にも言えないアネットの姿を見て、まるで実の娘のように頭を撫でている。笑顔になって。だが、どこかつかみどころがない質問も彼女はするのだった。



そんなに憧れていたのに、何故、女王の候補から辞退してしまったの?女王になれば、憧れの男性を永遠に自分の男性に出来るのに?


その尤もな指摘にアネットは声を小さくして、か細く言葉を絞り出す。



私は女王の器ではありません……。こうして、”女神の皇子”にお仕え出来ればそれで……





そういうのを、”名を捨て実を取る”というのよ?従者なら誰が妻に選ばれたとしても、”女神の皇子”の傍にいられるからね





そんな意味では……





すぐ赤くなって、本当にアネットは可愛いわ~。ファノンもこれくらい可愛げがあればいいのにね~


そんな彼女らのやり取りを見つめるエリオット・アルテミスは、このスカーレットは本当に人を動かすのは上手な方だなと思う。



さすが、遺伝子学の権威ともなると、人の扱いがすごい手慣れているなあ。ファノンは力で彼女をねじ伏せているけど、スカーレットは”可愛い”とかそういう褒め言葉でやる気を出させるのが上手なんだ。上に立つ人間という人物は伊達ではないということだな


何気なく彼は右手を自分の顎に触れている。すると、スカーレットはその真紅の瞳を見開いて、思わず右手を見た。昨日の二階から落ちかけた時、窓で擦った傷がもう治癒しかけているのだ。



ちょっと……昨日の傷がもう消えかかっているわ!治癒が早いわ!それも常人の数倍よ?





スカーレット様も、やっぱりそう思います?





これも、薬草のおかげでしょうか?


彼はそこで右手の擦り傷は何にもしていないと話す。それだけではない。この”女神の森”が近くにある”背徳の宮殿”に来てからというもの、肌も髪の毛も異様に調子がいいのだ。それこそ、いつでも艶のある髪を、肌を維持出来ていることに彼自身も驚いている。



いや。この擦り傷は本当に何にも付けていないんだ。だが、この土地に来てからというもの、妙に傷の治りが早いし、髪の毛も、肌も、何だか調子がすこぶる良いし……





この土地は、エリオット様の故郷みたいなものだから、水や食べ物が体に合っているのではないでしょうか?それで新陳代謝が上がっているとも





ああ…





まあ、体に悪いことではないが……


スカーレットは何かを考えている様子だった。特徴的な真紅の瞳を優しく輝かせて、メリットがある話をした。彼にはとことん都合がいい話だ。



エリオットさん。良かったら、私の家に来る?





え?





だって……ファノンの傍にいるのは嫌でしょう?エリオットさんに酷いことをしてきた女だし。なら、うちの城で誰を選ぶかゆっくりと考えるといいわ。お祖母さんとも折を見て会わせてあげましょう





スカーレット様。それは……





そうだわ。アネットもおいで?いつまでも、あんな暴君に仕える必要はないわ


彼女が得意気にそう何気なくアネットも誘った。まるで自分の都合がいいように誘導している。わからない方法で。
エリオットとしてみれば、これは確かに好条件だが、果たして信じていいものか疑う。
だが、やはり、どうしても気になるのかその自分を凌辱したファノン・エクレールの話題を話す。



なあ……どうしてファノン・エクレールは、あれほど女王の座に執着するのかな?





この世界・ヘスティアの女性が持つ当然の野心じゃないかしら?特にフェニキア王国の女王となることは、実質的な支配者になることだから





あんなに女王になりたがっているのに、俺にはいつも八つ当たりするような言葉遣いだし、なら、なぜあの時、”女神の森”で女王を選ぶ権利があることを自分に話したのか、わからない





その話をしたのは、アズラエルでもアリエルでもなくファノンが話したの?





ああ。アリエルにも少し聞いたが





はい。ファノン様が”女神の森”の神殿内に連れて行き、私に遺言の説明をするように申しつけました





なるほど。そういうこと


彼女が自信に満ちた真紅の瞳になり、深い紅の唇を笑みにした。



ファノンは昔から全然変わっていないわね~





どういう意味なんだ?





そんなこと言ったら、彼女の鋭利な剣の生贄にされちゃうわ~





俺には訳が解らない。なら、なぜあんな話を俺にしたのか。黙っていればいいものを





あなた、彼女のことが理解したいの?あの女に興味があるってこと?





それは。馬鹿言うんじゃないよ。あんな……





そうよね~。あんな、自分をレイプした女を好きになるなんて。あり得ないことだわ


スカーレットの真紅の瞳が不敵に輝いて、氷の微笑を浮かべている。



あ、あんな女……大嫌いだよ





エリオット様。あまり早歩きは……


その場に逃げるように彼は森の奥へ向かってしまった。それを追おうとするアネットを引き止めるスカーレットが呟いた。



面白いわ。彼





スカーレット様…


深い森の道を歩くエリオット・アルテミス。彼は必死で彼女が自分にした所業を思いだす。自分を誘拐したこと。強姦したこと、祖母を人質にしたこと、挙句の果てには凌辱を受けたこと。
なのに、何故、彼女のことばかりを思う自分がいるのか…わからない。
そうして…またいつもの夜が来た。凌辱から解放された静かな”背徳の宮殿”の夜。
ファノンは自室でイライラして眠れずにいる。やがて、読んでいた本を無造作に投げ、部屋から出る。
すると、部屋の外には何故か、エリオットの姿があった。
何かが気になって、外で待っていた様子だったが、いつもの棘のある態度を彼女は取る。



何の用なの?





いや。暇だからハーブティーでも淹れてやろうかと思ってな





あなたにはもう関係のないことでしょう?





あのさ。何で君は俺に選ばれないとこのフェニキア王国の女王になることが出来ないのに、そんな冷たい態度をとるのかな?





もっと、私に”媚びろ”ということ?





そうではなくて、普通に接してくれということ





じゃあ、あなたは、この状況で急に優しく接するようになって、それが本心と思えるの?私にはそうは思えない





なら、どうしてあの話を俺にするんだ?そのまま黙っていれば良かったものを、どうして?今のこの状況で俺に選ぶ権利があっても、全然嬉しくない。こんな”権力”を持っていても俺は嬉しくない。むしろ、迷惑な話だ





……あなたと……話しているとこちらの気分も悪くなるわ…!!自分で自分がわからなくなる!あなたなんかに権限があることは知らせずにいようと思っていたのに!女王になるためならどんな汚い手段でも使ってやると思っているのに!





教えてくれないか?どうして、俺に酷い凌辱をしてまで、この国の女王となることに執着するのかを


彼の心にある変化が起きようとしている。この女性を理解してみたいという想い。何故、そんなに苦しむのか、理由が聞きたい。それから解放が出来たら、この女性のことも、自分を犯した人のことを理解できるかも知れない。



彼女から聞いた。君の両親の話はここでは重い禁忌と。一体、何があったのか聞かせて欲しい…


だが、そこで彼女の緑色の瞳が更に憎悪で滾って彼を睨みつけた。もはや、そこには殺意さえも宿っている。



ファノン…?





どこまで聴いたの…?


声を震わせて思わず怒鳴った。彼の胸倉を掴んで、今にも首を絞めんばかりに荒々しく質問する。



どこまで聴いたのか聞いている!言いなさい!!





いや、細かい話はまだ聞いていない





あなたは、あれだけ傷つけたのに、まだ傷つきたいのね…!!じゃあ…この際教えてやるわ。あなたを凌辱したのは、”女神の皇子”がこの世で一番、憎い存在だからよ!!





本当、虫唾が走る!あんたのような男に選ばれなければ、女王になることが出来ない自分と、そんな遺言を残したババア共が!!





や、やめろ!刃物を取り出すのは!!


やがて、右手に持った短剣で、エリオット・アルテミスの肌を切り裂き始めるファノン・エクレール。ベッドの上に彼を倒し込んで、そして右手の短剣を握りつつ、その左手は彼のズボンに伸びてきていた。そこを乱暴に掴む。



あぐっ!!





ほら!もう、ここを欲望でいきり立てている!淫乱な男。”女神の皇子”だけあるわ!そうやって女を貪り快楽を得る最低の雄!





やめろ!!ファノン…!!あぐう!!





ほら…もう感じているじゃない…!淫乱な身体。さすが、”女神の皇子”ね


そうして、彼女は口戯をしながら、サディスティックに質問攻めを彼にする。



スカーレットともう寝たの?





寝てない…





じゃあ…アネットと?





していない…!





エクレールの女なら、あんたはすぐに絶頂に昇って自分の愛を注ぎこむものね!女の花園に!





違う!!





じゃあ……聞くけど、こうやって大嫌いな女に攻められ、得る快楽はどうなのかしら?





くうっ…!!





ほら…さっさと入れて、私を悦ばせなさいよ!





くうっ…!!ううっ!!壊れてしまう!俺が壊れてしまうよ…!!





嘘をつきなさい。かよわいフリして、あなたも他の男のように裏切るに違いないわ!あなたなんか、これで十分ね





そんな…荒縄で縛るのか…!!あぐう!!





口で綺麗にして。私のここを


両手をそして、自分の分身を、荒縄で縛り上げたファノンが自分の顔面に騎乗した。そして無理矢理、オーラルセックスを強要されてしまう。
エリオット・アルテミスはまた恐怖の日々を送ることになった。彼は顔を屈辱と苦痛で歪ませ、そして思った……。



また、あの冷酷な憎悪に滾った瞳に見つめられ、犯される日がくるなんて…。初めて犯された、あの日。その瞳の冷たさに震えてしまう夜がもう一度くるなんて……


ファノンによる”女神の皇子”への凌辱がまた始まった夜。真夜中の十一時過ぎのことだった。唐突にスカーレットはアネットにこう声をかけた。



ねえ?アネット。知っている?”オールド・バイオテクノロジー”を?とある国では既に確立されてきているテクノロジーでね”発酵”と”品種改良”のことを指すの


スカーレットは遠い目をして、ソファにくつろぎそのまま続ける。アネットはそんな彼女にお茶を出していた。



特に何世代もの交配を重ね調整される品種改良は、気の遠くなるような長い時間をかけて行われた遺伝子組み換え技術





エクレール家と”女神の皇子”ですか?


テーブルにお茶を置くアネット。そこで彼女はいきなり、スカーレットに深いキスをされた。とろけてしまうような甘い口づけ。
スカーレットがアネットにキスをしたまま、ソファに倒れ込む。その繊細な手をふくらみで触り始める。甘い吐息を吐いて、スカーレットの艶やかな唇がアネットの首筋を這う。



やめてください…!!スカーレット様…!!





どうして…?あの時は二人で愛し合ったじゃない?


スカーレットがアネットの侍女のドレスを脱がしていく。繊細な肩が露出され、彼女のふくらみが露わになる。彼女がそのまま乳首にキスをして、舌先で転がし始める。



あっ…あん…スカーレット様…





あの頃のままね。敏感な乳首……素敵だわ


やがてスカーレットはそのまま彼女の身体を愛撫しながら、密かな欲望をここで”言葉”にして見せた。



本当はあなた…”女神の皇子”……エリオットが好きなんでしょう?





私の下へ、おいで?アネット?……そうしたら……彼を……”女神の皇子”をあなたにあげる


スカーレットの真紅の瞳が自信と確信に満ちた輝きを宿して、アネットが抱く”密かな欲望”をここで叶えてあげると宣言していた。
アネットの頭の中では、今、手ひどい凌辱を受けるエリオットの姿がある。実際、その通りだったのだ。
