車内は重い空気だった。理由は知ってる。協力者と言う人物の名前が出たせいだ。
車内は重い空気だった。理由は知ってる。協力者と言う人物の名前が出たせいだ。
……
えーと、そんだ！ 鮫野木くんに聞きたいことがあるんだ
はい、何ですか？
この空気の中、吉良が明るく話しかけてきた。
鮫野木が眠っていた間、夢……じゃなっくて裏の世界での体験だった
その事について詳しく聞きたいだけど、良いかい？
良いですけど……嘘にみたいな話ですよ
きっと、この人は面白半分で聞きたいだけなんだろうな
鮫野木の引きずった表情を見逃さなかった吉良は鮫野木に話しかける。
イヤイヤ、信じるよ。僕はえーと、主にオカルト、噂、都市伝説、怪談話と言った古い話を集めて研究しているんだ
研究ですか？
吉良さんは何処かの研究員だろうか。古い話を集めているから考古学者かも？ 後で聞いてみよう。
そうそう、まあ、研究と言っても、集めた胡散臭い話の真相を調べているだけさ
吉良さんは……その、オカルトとか信じていないですか？
鮫野木の質問に吉良は熱く語る。
勿論、信じているさ。まぁ、テレビやネットの動画は大半、良く出来た偽物だし、怪談話や都市伝説は元をたどっていくと、意外とサッパリしている時もあった
特に面白いのは噂だね。噂の真相にたどり着いた時はフフ、たまらないね
吉良はニヤリと笑う。
あの、本当に信じてます？
ああ、信じている。信じているから、とことん調べて証明したいのさ。この世に幽霊や妖怪、宇宙人、UMAが居る事をね
まさに君が体験した出来事が証明の足掛かりになるかもしれない
だから僕は信じるよ。鮫野木くん！
は、はい？ ありがとうございます？
吉良さんの熱意がこもった話し方は嫌いじゃなった。俺も好きなアニメの話になるとつい熱く語ってしまう。ジャンルは違うが好きな物に対する情熱は同じなのかもしれない。
それに本音で話している事が伝わった。吉良さんはけして、面白半分で聞きたいわけではなさそうだ。
良かった信じてもらえて、六十部先輩の話だけじゃ、分からない事があるから助かるよ。やっぱり本人から聞かないとリアルが無い
そうなんですか
なるほど、六十部先生のオカルトに詳しい友人は吉良さんの事か。
そうだね。ああ、早速で悪いけど、鮫野木くんが居た街、裏の世界は現実の街とそっくりって聞いたけど、どのぐらいそっくりなのかな？
吉良の質問にあの街の光景を思い出した。鮫野木は思ったままを口に出した。
そうですね。ほとんど変わりは無いです
そうか。じゃ、変わっているところは？
吉良はたたみかけるように質問を続ける。
人です。あの街の大半の人は、その、居るだけなんですよ。街の一部というか、良く出来た人形みたいな
確かNPCって呼んでいたね……どんな感じだった？
鮫野木はあの街のK・S記念病院やカゴメ中学校で体験した奇妙な出来事を思い出す。
うーん、例えるならゲームのキャラですかね。決まっているような動きをしているようでした。ゲームと違うのは話しかけても答えてくれないのが普通で、まるで幽霊になった気分でした
記憶をたどっていくと、三人の人物が脳裏に浮かんだ。
あっ、でも三人、話せるNPCが居ましたね
俺が話したNPCの三人はカゴメ中学校の先生とカゴメ中学校の外で会った……誰だっけ？ えーと、お姉さんと日泉桜、現実だと園崎桜か。
そうだな。ゲームで言うNPCか、もしかしたら、ある程度のアルゴリズムが組み込まれているかも？
アルゴリズム……それはコンピュータの話じゃ？ 関係あります？
確かアルゴリズムって、問題を解く為の手順だっけ？ ゲームだとNPCを動かすためのNPC動作アルゴリズムだったよな。でも、俺が居たのはゲームの中じゃない。それとも違う場所に居た。
アルゴリズムは例えに使っただけ、それに――
――あの街を作った創造主が居るからね
創造主ですか？
すると、吉良は熱く話し出した。
創造主は裏の世界を作れて、そこに人、NPCも作れた。ただ、NPCを動かすには何かしらのシステムがあるはず
裏の世界に居るNPCは人じゃない。作られた人形と言って良い
仮に魂で動いているのなら、それは生命だ。だとしたら、ある程度、アルゴリズムで行動を決めているはずさ
まず、話せるNPCと話さないNPCの違いはアルゴリズムの組まれている手順の量の差がある。だから――
――あの、分かりやすく……
鮫野木は話が分からなくなる前に半紙を切った。
あっ、ごめん。簡単に言えば三人のNPCだけ高性能に作っているってこと
僕が考えるに、あの街を作った願いの神だったかな、創造主の意思が多少含まれているはずさ
どうして、そう思うですか？
ゲームを作ってやる人が村人Aにセリフを話せるようにプログラミングをするように、創造主も話せるNPC三人に何かしらしたはずさ
と、なる……と
吉良は片手をあごに当てて、考え出した。
創造主がこの街とそっくりな街を作り。そこに暮らす人を用意したのは野沢心が願ったから？ 違う、彼女が願ったのは父親の生き返らせる事だ
僕が知っている限り、野沢心が願ったことはその一つ……裏の世界が存在している理由ね
吉良はぶつぶつと独り言を吐いている。その中に気になることがあった。
ん？ そう言えば野沢が願ったことは二つ？ じゃなかったかな？
そんなこと考えていると、吉良が我に返り話しかけてきた。
鮫野木くんは裏の世界がどうして出来たか気にならないかい？
あの街が……
あの街が出来た理由なんて考えた事なんて無かった。あの街は何の為にあるかなんて分からない。
