漆黒の闇の中をひたすら歩く。
 階段を昇っているのか、降りているのか、
 前に進んでいるのか、後ろに下がっているのか、
 それすらも分からない。
 漆黒の闇の中をひたすら歩く。
 階段を昇っているのか、降りているのか、
 前に進んでいるのか、後ろに下がっているのか、
 それすらも分からない。
ギ
ャ
ァ
ァ
ァ
ッ
ッ
!!
頭の中に響くのは、今まで殺した人間の断末魔の叫び。
 彼らの命を奪ったその時は何も感じなかった。
 
今になって罪悪感が覆いかぶさってきて、心に突き刺さってくる。
苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、
彼らの感じた痛みがそのまま自分に降りかかる。



………ダメかもしれないな


 孤独になったことで、
 簡単に弱音を吐いてしまう。
 オレは弱かった。
 弱くて、脆くて、一人じゃ何も出来ない男だった。
 ミランダの意思を継ぐために
 幻獣王の力を捨てて、人間の姿を得た時……
 本当は怖かった。
 そんな弱い自分を支えてくれたのがクリスだった。
 あの日から……その前からずっと一緒だった。一緒にいて当然だった相棒。困ったときは、必ず駆けつけてくれた。
 そいつは、今は居ない。
 一人になると彼の存在がどれだけ大事だったのか身に染みる。
 昔は一緒に住んでいたけれど、いつから別々に暮らすようになったのだろう。
 思考する
 
 ラシェルを拾ってからだった………そんな気がする。
 最初はクリスの方がラシェルを嫌悪していたのだ。
彼は子供が苦手だったから。
 ラシェルも長居させるつもりはなかったのに、今では当然のように一緒に居る。
 一緒に居なければ不安になる存在になっていた。
 一緒に居なければ、先に進めない……
 ……なんて、情けないことを考えてしまう。
 
 だけど……
 ここの試練は一人で進まなければいけない。
そう、思っていた。
 彼女も、きっと一人で自分と向き合っているのだろう。
 無事に外に出ていることを願いながら、前に進む。



デューク!


 ふいに声をかけられて足を止める。
 四方八方、闇に包まれている空間で誰が名を呼ぶのだろう。



………っ


 突然、背中に衝撃があった。
 倒れないように、足を踏ん張る。



デューク、追いついた!





ラシェル? どうして


 背中を突き飛ばして現れたのはラシェルだった。
 少しだけ怒っているような気がする。
 どうして、彼女が怒っているのだろうかと悩む。
いや、そうじゃない。彼女が居ることの方がおかしい。



どうして? 「一人で一つの扉を開け」なんて決められてなかったみたいだし





でも





草むしりも虫の駆除も一緒にやったじゃない。だから、扉を開いて先に進むのだって一緒でも良いんじゃないかな~って思ったの。だから、一度戻ってデュークの入った扉を開いて追いかけたんだよ





よく、戻れたな……ここに入ったら、右も左も、前も後ろも、分からなくなるのに





え? 簡単だったよ。階段降りて扉開いたら元の場所に戻ったから





危険だと思わなかったのか? そのまま、出られないとか考えなかったのか?





思わなかった。だって、私が行くのはデュークの側しかあり得ないから! 走っていけば絶対に会えるって信じていたから


 ドヤ顔でそんなことを言う。
 彼女には根拠のない絶対的な自信があるらしい。



………





あれ、怒っている?


 ふいにラシェルが心配そうに眉を潜める。
 その額をポンっと小突く。



怒っているさ





あれ? 泣いているの?


 瞼の奥が熱くなる。
 こいつは、いつもそうだった。
 周りの都合なんて関係ない、自分の都合だけで突き進んでくる。
 だから、迷惑だった。
 その迷惑に、いつも救われていた。
 だから、今度も……



今はラシェルの無謀が……心強いよ





エヘへ……行こうか


 ラシェルと合流してから視界が明るくなった気がする。
 一人ではないということは、こんなにも安心出来るのだ。
