男の姿はない。
びっしょりと汗ばんだシャツ。
灰皿の上で空気に吸われてしまった煙草。
目の前で呆れた顔のダイゴ。
夢?
そんな馬鹿な。
あんなリアルな夢があるのか?
焦点の合わない目で時計を凝視する。



………。





………。





ちょっと!いい加減起きて下さいよマスター!





……!?


男の姿はない。
びっしょりと汗ばんだシャツ。
灰皿の上で空気に吸われてしまった煙草。
目の前で呆れた顔のダイゴ。
夢?
そんな馬鹿な。
あんなリアルな夢があるのか?
焦点の合わない目で時計を凝視する。



二時三十分…。





まったくいきなり寝ないで下さいよ。
僕帰れないでしょうが。
大体毎日毎日飲みすぎなんです。
あなたもう四十歳ですよ?
しっかりしてほしいですね。





すまん。





いや、いいんですけどね。
ダメな人なのは認識していますから。





寝起き早々、キツイお言葉ありがとさん。





しかしまあ…酷い魘されようでしたよ。
借金取りに追われる夢でも見ましたか?





もっとタチが悪いやつさね。
妙な男に殺されかけた…こう、首をぎゅっと…


そこまで言いかけた瞬間、
ダイゴの顔が見る見る青くなっていった。



…マスター、首に。
跡が。





……。


携帯のカメラを鏡のようにして自分の首を写してみる。
そこにはくっきりと手の跡があった。
全身の血の気が引いていく。



やっぱり…ただの夢じゃないようだ。
俺が寝ている隙にダメなマスターが憎くてダイゴが首を絞めたわけじゃないだろうし。





しれっと人聞きの悪い事言わないで下さい!
茶化して怖いの隠す気持ちは分かりますけども…。


静かなジャズが流れる店内で、
俺達は押し黙った。
こんな状況、どうしろと?
また脂汗が額に滲み出る。
しばしの沈黙を破ったのはダイゴだった。



今日はもう、帰りましょう。うん。
気のせいですよ、気のせい…。





なァ…ダイゴの家、泊まっていい?





お断りします。





だよね…。


何とも言えない気分で機械的に帰り支度をし、
俺達は店を後にした。
勿論、俺がビクビクしながら家に帰ったのは
言うまでもない。
To be continued…
