生まれたその頃より、金、力、知恵等……権力以外の全ての能力を得た勇者がいた。
魔王を退治した後の世界、勇者は今日も依頼主と共に、悪さをするドラゴンを懲らしめていた。
しかし、彼の表情は何故か浮かない。
生まれたその頃より、金、力、知恵等……権力以外の全ての能力を得た勇者がいた。
魔王を退治した後の世界、勇者は今日も依頼主と共に、悪さをするドラゴンを懲らしめていた。
しかし、彼の表情は何故か浮かない。



はぁ





どうかしたの?





何をしていても退屈なんだ。相手に勝っても当たり前だし、女の子は僕の肩書やお金しか見ていないし、覚えることはもう覚えつくした……もう忘れたいくらいさ





そう、それは大変ね





君が手に入ったら、何か変わるかもね





あら。残念だけど、私駄目な男が好みなの





駄目な男?


勇者はそう聞いたあと、くすりと微笑んだ。



だったら尚更良いよ、俺は駄目な人間だからね





そうかしら?





うん。だって俺は、もはや何をしても退屈としか感じない、駄目な男なんだからさ





……そう


二人が手を繋ぎかけたその瞬間、依頼主の手先が激しく蠢いた。



けれど、この姿を見ても、貴方はそう言えるかしら


依頼主がそう言った瞬間、依頼主の体は黒煙に包まれた。黒煙が風に流れると、その姿は豹変していた。



……!!





さぁ、戦いなさい勇者


魔物と化した依頼主が言った。
すると、勇者は大声で笑い飛ばし、魔物へと歩み寄る。



やっぱり思った通りだ。君は僕を退屈させない





でも、私は人間の敵なのよ? 私を逃がしたら……





君は悪い人じゃない。だから、もし君をいじめるヤツがいたら、僕が守ってやるよ





……!!





本当に馬鹿な人。でも好きよ、貴方みたいな、底なしの駄目な人


二人は堅く手を繋ぎ合った。
だが、幸せなひと時はそう長くは続かなかった。
魔物をかばう勇者を、人々は手の平を返したように反逆者と呼び、多くの人々を集めてその命を奪おうとしていたのだ。



いたぞ! 化け物と反逆者だ!!





チッ、もう見つかったか。お前は逃げろ!





いえ、私はもう良い、だって本当は誰も傷つけたく無いんだもの……だから、貴方だけでも逃げて





そんなことするもんか! そんなことするくらいなら……


二人は手を繋ぎ、見つめ合った。
すると、無抵抗の二人へと、敵へとなった人々が刃を向けた。



愛してるよ





私もよ、きっと、生まれ変わってもね





……





……


とある木の下、生まれ変わった二人の男女は手を繋ぎ、幸せそうに眠っていた。
