百合は焦っていた。
店主からの事実上の崖っぷち宣告から数日経ったが、特に変わった様子はない
ただ、変わった様子がないのは百合のほうも同じであった。



なんとかしないと……なんとか……


百合は焦っていた。
店主からの事実上の崖っぷち宣告から数日経ったが、特に変わった様子はない
ただ、変わった様子がないのは百合のほうも同じであった。
いままでの評判に最近の素行が相まってか、客足は明らかに落ちていた。



このままだと……私は……


そんなこと考えているとふすまの外から声が聞こえた



百合さん。正太郎さんですよ





は、はい!
どうぞ!


心なしか返事に力が入る
スッと開いたふすまの奥には長らく見てなかった笑顔があった



やあ久しぶり。ゴメンね仕事で東京まで行ってたんだ。そうそう初めて東京駅を見たんだけど、すごかったね!評判以上だった――





やっと会えた!





ど、どうしたの?
いつもとは違うけど……大丈夫?


いつもつんけんした百合の突然の豹変に正太郎は素直に驚いた。
まして前回からかなり期間が空いていたのだ。



百合さん?





ひぐっ……正……太郎……さん





……


正太郎は黙って百合を抱きしめた。
百合の泣き声が止むまで抱きしめていた。



グスッ……すみません……お見苦しいところをお見せしてしまって……





いえ……落ち着きました?





はい……
ありがとうございます





何かあったんですか?
僕でよろしければ話を聞きますよ





実は私……ここを追われてしまうかもしれないんです……





どういうことなんだい!?


百合はこの店で実際にどこか行方の知れないところに送られた子がいたこと、自分が次の候補になっていること、そして……



もう……仕事に集中できなくて……





そんなことがあったのか……





昔はどうやって仕事をしていたのか思いだせなくて……
何も考えずに仕事するにはどうしたらいいかわからなくて……





どうしてまた……





それは……


百合は口ごもる。
理由は分かっているが口に出せない
口に出せばそれが真実だということだ
自分の隠し続けていた事実、ふたをし続けていた事実と向き合うということだ



それは……





言いにくいなら無理には――





いえ……
仕事が手につかなくなったのは……
あなたのせいです……





僕のせい?





そうです……
貴方が……私のことをあきらめないから……





ほかのお客を相手にしてる時も……貴方のことがよぎってしまって……





もういっそあなたのものになってしまいたいと思って!





そのせいで君の命が狙われてる……





責任……取ってくださいね……





もちろんだよ……
そうと決まったら、ここから出ないと……


そう言って正太郎は百合の手を引いて立ち上がった
その時、タイミングを見計らったかのように襖が開いた
そこには店主とその下っ端たちがいた



困りますねぇ……お客さん……
私たちの大切な従業員を……





心にもないこと言うなぁお前





いえいえ、大事な従業員ですよ
大事な商売道具ともいえるかもしれませんがね……
さぁ……その女を返してもらいましょうか……


百合たちと店主たちの距離が次第に近づいてゆく
終わりの時が
近づいてゆく……
