映画館を出た後の余韻。
映画館を出た後の余韻。



面白かったね。





どこがですか、


結果から言うと、面白くなかった。
これっぽっちも面白くなかったけど、
リトさんの顔をした渡くんとの距離はすごく近かった。
手をつなぐどころか、自ら腕を絡めていて。



いや、映画以上に青木さんが。


青木さんが、と
あざとい声で囁かれたと思うと、
してやったりとでも言うような表情を見せてくる。



…、


何も言い返せない。
映画館を出た後も、
私の右手はちょこんと彼の服の裾を掴んでいる。



さっきみたいに腕組めばいーのに。


ま、それも可愛いからいいんだけど。
渡くんにそんなことを言われては泣きたくなった。



今日の私は青木尚じゃないです。明日には全部忘れてください。


これだけ甘える私を許して、と私は呟いた。
これらは全部、見た映画のせい。



…ホラーなんてチョイスするから悪いんじゃんか。


渡くんに連れられて入った三番シアターは、
怖いと噂のホラー映画を上映していた。
途中で何度も逃げ出そうとしたのを、



だーめ。耐えて?


そう言われた時に、
全て確信犯、彼の思い通りなのだと気付いた。
見終わった後の、私の反応に満足げな渡くん。



あー、誘ってよかった。





渡くんが憎くて仕方ないよ。





謝らないけどね。この後の展開がさ、スムーズになるかなあって。


この後の展開、といった後に彼は



俺んち。誰もいないから安心して。


ニコリと笑って、ゆるゆると私の手を握った。
安心して、という言葉に何の価値はないものの、何となく、想像はついていた。



…、


大好きだった、大切だったあの人のことを忘れさせてくれるなら、もうなんでもいいのだ。
手を振りほどかなかった私に、彼は笑いかけてくる。
たいそう、満足げに。
