ここまでの顛末
ここまでの顛末
魔剣の力で不死身の肉体を持つ敵に、ルシファー達は苦戦を強いられる。
ベルゼブブの策が整うまで、ルシファー、ベルフェゴール、イシスの三人は時間稼ぎのため、不死身の男に挑む。
何を企んでおるのか知らんが、みすみすやらせると思ったか!
そう言うと鎧の男はこちらに走ってくる。
黒の大地よ! 剣山となりて敵を貫け!
迫りくる鎧の男の前にベルフェゴールは岩盤を出して白い鎧の男を取り囲んだ。
足止めのつもりか、小賢しい!
鎧の男は道を阻む岩を切り裂く。
ぬっ!
すると切った岩の向こうからナイフが飛んできた。咄嗟のことに反応が遅れた鎧の男は、鎖つきナイフによって腕を絡め取られる。
走れ雷鳴、かの敵を撃ち貫け!
イシスが鎖に電撃を走らせる。
ぐおおおおおおお!!!
これでどう!
殺せない相手に殺傷系の魔法は無駄だろう。なのでイシスは電撃で痺れさせ男の動きを止める。
ぐぬぅ! 舐めるな! 女!
鎧の男は電撃を食らいながらも腕に絡んだ鎖を思いっきり引っ張った。
しまっ…!?
イシスは男の馬鹿力に引っ張られた。
宙に跳ぶイシス、そこには剣を構えた男が獲物を捕らえるかのように舌なめずりをしていた。
死ね、女!
死ぬのは貴様だ。
イシスが斬られそうになる瞬間、ルシファーは男に飛び込んで首元を斬りつけた。
ぐぬぅお!!!
首から大量の出血をさせる男、鎧の男が怯んでいる隙にルシファーはイシスを担いで一旦男から離れる。
あ、ありがとう。今のはヤバかったわ。
奴に直接または間接的に接触するのは危険だ。いざとなれば奴は不死を利用して捨て身で殺しにかかってくるぞ。
うん、わかってる。
ぐ、ぐぬぅ・・・
ふぅ・・・
しばらくすると、鎧の男から吹き出す首の血が止まり完全に傷を癒す。
これも駄目なのか…なんて奴だ。
おい! まだなのかベルゼブブ!
岩盤を出し続けながら鎧の男の足をなんとか止めているベルフェゴールはベルゼブブに首を向けて叫んだ。鎧の男は岩盤を粉砕しながら確実に近づいてくる。
もう少し! 後もう少しです!
ベルゼブブは必死に答えた。
仕方ない、ダーインスレイブ!!!
待ッテタゼ!
ダーインスレイブは歓喜すると、封印装具のガントレットを外しルシファーの右腕に寄生した。凄い勢いで血を吸われルシファーは立ち眩みを起こそうとするも、気合いで足を踏ん張る。
ぐっ…
30%だ。やれてもこれが限界だ。
ルシファーの身体を分散し、多数のカラスが散らばる。それは黒い竜巻となって鎧の男に襲いかかる。
ふん、このような竜巻如きで余を倒せると思うな!
黒い竜巻となったルシファーを鎧の男は斬りつけようと剣を振り上げる。
先程、ハエの群衆になって攻撃を仕掛けたベルゼブブの本体をピンポイントで斬ることができた。
本来、物理攻撃を受け流すことができる身体の分散化は、この鎧の男相手には効果がない。おそらく魔剣の影響で無力化されているのであろう。ベルゼブブと同じ二の舞になる。ベルフェゴールはそれを悟ってイシスに大声で呼んだ。
イシスちゃん! 力を貸してくれ!
え、は! はい!
イシスはベルフェゴールに言われた通りに地面に手をつけた。
同時にやるぞ! せーの!
それぇ!
二人は地の魔法を地面に流して、それは鎧の男の立っている足下まで伝わる。すると地面が盛り上がり男は体勢を崩した。
なにぃ!?
迎撃しそこねた隙をルシファーは逃さない。
しまっ…!?
黒い竜巻は鎧の男を飲み込んだ。竜巻の中でルシファーの斬撃が四方から男を切り刻む。
ぐおおおおおおお!!!
高く打ち上げられる鎧の男に、黒い竜巻はやんでダーインスレイブの刀身にカラスが集まり膨大な魔力のエネルギーに換わる。
修羅煉獄ッ!
ダーインスレイブから放たれた黒い光が一直線に宙にいる鎧の男を包み込んだ。
ぐわあああああああああ!!!
修羅煉獄の熱量が鎧の男を焼く。そしてそれを放った途端、ルシファーは力尽きて倒れた。
ぐはっ・・・・・・!
ルシファー!?
倒れたルシファーに駆け寄るイシスとベルフェゴール。
全く無茶しやがって!
ぐっ…奴は…どうなった?
上空を眺めると、そこには身体の半身をもがれた鎧の男がいた。修羅煉獄を食らい奴の肉の大半を吹き飛ばしていた。
「グッ・・・ガ・・・」
流石に効いてるみたい
いや待て、あれは・・・
男は致命傷を負っていた、だが・・・
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
男のちぎれた身体の部分が泡状に膨らんで、無くなった部分を再生させていく。
わかってはいたが、流石に自信なくすな。
修羅煉獄はルシファーの最大の奥義である。それが効かないとなると、これ以上は打つ手がない。
コロス・・・
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス
一度ならず二度までも…俺をこのような目にあわせて、なんたる屈辱だ。殺す、皆殺しだ!
陛下!!!
鎧の男の憎悪が伝わる。男の気力は満ち溢れている。あれだけ攻撃してもまるで疲れ知らずだった。それだけではない、時間を掛けすぎため、帝国軍の増援がぞろぞろと大軍で押し寄せてきた。
このままでは…
ルシファー達は絶体絶命の危機だった。その時、ベルゼブブの詠唱が終わった。
お待たせしました。皆さん私の後ろへ下がってください!
ようやくか! 待ちわびたぜ!
ベルフェゴールはイシスと動けないルシファーを担いでベルゼブブの後方に下がる。それを確認するとベルゼブブは最後の節を詠唱する。
黒き灼熱の流動よ!
怒り狂え! 大地よ裂けよ!
闇から這い出て怒りの血で敵を滅ぼせ!
激炎のアンガーラヴァーン!
ベルゼブブは最大まで溜めた魔力を手のひらに収め地面につけると、それを流し込んだ。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
しかし、何も起こらない。
まさか…不発?
かーこれも駄目なのかよ!
悲観するベルフェゴールとイシス、それをベルゼブブは笑って言った。
いえ、計算通りです。
その時、凄さまじい地震が起きた。その場にいた者全員が体勢を崩した。
な、なんだ!?地震かッ!!!
ベルゼブブ一体何をした?
この島の地下に流れるマントルを探知するのに時間がかかりました。島中のマグマを刺激し活性化させ噴火させたのです。
その瞬間、レスボス島の中心にある一番高い山が噴火した。噴火した爆発で数多の岩石や溶岩がここまで飛んできた。
ぎゃああああああ!
うわああああああ!
ひぃ、ひいいいい! のぎゃあ!
噴火し飛んできた岩石が帝国兵に当たり死んでいく。山から噴き出した溶岩は下流に流れて、帝国軍の拠営地は溶岩によって火の手が上がっていた。帝国軍はこの災害により大規模な損害を受ける。