圭

日浦圭
女性が苦手

スッ……。
っと、席に着いた圭。

快

終わりッ!?

圭

終わり

早すぎる……。
長々と、話す内容を考える僕をあざ笑うようだった。

簡潔に放ったのは、自分の伝えたい内容だけ。

女生徒

! そうなんだぁ……日浦君って

男子生徒

あの噂……本当だったのか……

僕は別段、この空気については驚かない。
年々少なくなる圭の自己紹介と違って、
教室内がざわつくのは毎年だからだ。

二年生でほとんどの人がそうだと知り、
三年生になったらみんな知っていて当然になる。

なぜか。
小中学の経験則から言って、
圭は女子から告白された時、
大体「女性が苦手だから」と言ってふる。

(あまりないけど)男子から告白された時は
「好みじゃないから」「興味がないから」とふる。

だから自然とみんなは確信する。
日浦圭は同性愛者なんだと。

教員

はいはい

教師はパンパンと手で名簿を叩き、
教室を落ち着けた。

コレも毎年の光景。

圭

頑張ってね

隣に座る僕にそう言った圭は、
軽やかに笑い僕を見て言う。

快

ああ

これも経験則になるが、
僕の出席番号は圭の一個後ろ。
同じクラスになるとほとんどそうだ。

つまり次の順番は――

教員

次、矢橋快ー

快

はいっ

最大限の笑顔を作り、立ち上がる。

僕が座っているのは最後列。
振り向いて僕をまじまじと見る生徒を見渡した。

快

僕の名前は、矢橋 快です。
これから皆さんと一年間、同じ時間を過ごしていくわけですが――

大事なのは、一人一人の目を見て話すこと。
そうすることによって親近感を得られ、
その後、話し掛けやすくも、
話し掛けられやすくもなる。

快

――たくさんの人と仲良くなって、交友の輪を広げてたいと思っています。
では皆さん、

あっ、しまった。
趣味の話をしていない。
せっかく流行りのバンドを、
興味もないのに聞き始めたのに……。

快

えー……

仕方が無い、締めよう。
趣味の話は……そう、
仲良くなってからでいいじゃないか。
とりあえず皆と仲良くしたい、
そんな僕の意思は伝えられたんだから。

快

よろしゅくおn、お願いしますッ!

……。
…………。
……………………。
着席。まばらな拍手。

圭

いいオチだったね

快

オチとか言うなっ!

なんで僕の舌はあのタイミングで回らなくなるんだ!
あと一歩だったじゃないか……!

女生徒

…………ぷっ……

女生徒

くっ……ふふっ……

まばらな拍手に混ざって、
堪えるような笑いが聞こえる。

いや、それもそうだろう。
あんな快活に喋っていたやつが、
最後の最後で噛んだらみんなそうなる。

教員

よし、今ので最後だな

男女合わせて22人の自己紹介が終わった。

話す前は緊張でほとんど聞けず、
話した後は後悔で何も入ってこなかった。

なんだこれ、最悪な結果にも程がある。

教員

ちなみに俺の名前は赤間だ。
赤間先生と呼ぶように。
間違ってもあかまっち、などとよぶんじゃないぞー

男子生徒

はーいあかまっちせんせーっ!

教員

こらっ

そこまで面白いかとツッコムことで完成されそうな程、大盛り上がりな教室。

いや……ここでツッコんだら空気クラッシャーとして名を馳せることになりそうだ。
おとなしくしておこう。

本当に自己紹介だけで終わったホームルーム。

圭

帰ろう

と、浮かれて更なる自己紹介に励むクラスメイト達を見もせずに圭が言った為、僕もすぐに教室を出た。

快

ああ……明日にはいくつかグループが出来てるんだろうな……

あの感じをみると、明るい人が多そうだ。
今日早く帰ってしまったのは、
友達作り失敗の第一歩目だったかも知れない。

圭

あんな人達、そこまで気にしなくていいよ

快

あんな人達って……クラスメイトだぞ?

圭

うん

快

気にしないわけにもいかないだろ

圭

んーん

快

? どうして

圭

だって快には、俺がいる

朝注意したはずなのに、
だいぶ距離を縮めていた圭が、笑った。

圭

俺がいるよ

快

…………

何かを返そうと逡巡するも、
良い言葉が見当たらない。

普段から表情の変化が乏しい圭は、
笑うとなぜだか、説得力が増す。
妙な威圧感……というか、
真剣味というか……
なんとも言えない迫力を醸し出している。

快

……確かに圭がいつも隣にいてくれれば心強いけどな、僕は他にも

圭

快、

なんとか捻り出した言葉は、
上から塗りつぶされる。

快

……どうした?

圭

今から快の家、行っていい?

急だな。
でも確かに、午前中に学校が終わって暇ではある。
予定はあるにはあるけど、

快

いいけど……帰ったら小物を見に行こうと思ってたんだ。
一緒にくるか?

圭

うんっ

こうすればいいよな。
近くの百均で済む買い物だし、
終わったらゆっくりすればいい。

その後、特に会話をするわけでもなく、
こうして僕らは、のんびり帰路を歩いた。