家に帰ると、満面の笑みを浮かべた結人さんが迎えに出てくれた。
ただいまー
家に帰ると、満面の笑みを浮かべた結人さんが迎えに出てくれた。
おかえりなさーい
見ると、その手には、一枚のワンピースがある。
ピンクの、清楚なワンピース。
幾重にも重ねられた薄いレースが、ひらひらと舞ってかわいらしい。
ちょっと早いけど、春仕様
かわいー
あたしは思わず玄関をあがりワンピースに触れた。
生地もふわふわで気持ちいい。
すごくかわいい。着てみたい。
一回着てみる？
いいんですか！？
くすくすと笑われたが、あたしはワンピースを受け取ると近くの部屋に駆け込んだ。
すぐに制服を脱いで、ワンピースに袖を通す。
すごく軽くて動きやすい。
くるっとまわるとレースが揺れて、すごくかわいい。
結人さん！どうですか？
部屋を出て、軽くターン。
結人さんは一瞬目を見開いて、それからふわりと笑った。
似合うね、思った通りだ。
本当ですか！？
あたしは完全に舞い上がっていた。
スカートの裾を持って、軽く動かしてみる。
幸せな気持ちになっていると、結人さんが口を開いた。
じゃあ、俺はここで。
え？
不思議に思い見やると、結人さんは来た時に持ってきたキャリーを手にしていた。
本当はもっといっぱいあんちゃんの服作りたかったけど、新しい仕事が入ってね、どうしても帰らなくちゃなんだ。
…続きは、また今度ね。
…そう、なんですか…
自分でもわかるくらい、そのときのあたしの声は沈んでいた。
そんなあたしを見て、結人さんが笑う。
あんちゃん、俺がいなくなって寂しい？
…はい。正直、最近怜一郎さん忙しくて家いないことが多かったから、結人さんがいてくれてうれしかったです。
そう言うと、結人さんは優しく微笑んでくれた。
俺、ちゃんと役に立ってたんだ？
…はい
そっか。よかった。
そう言って、スリッパから下駄に履き替える。
そのまま玄関のドアノブに手をかけて、ふと止まった。
あ、そーいえば
キャリーのサイドポケットからスマホを取り出す。
番号教えて
え、ああ。…はい
あたしは慌ててバッグからスマホを取り出した。
こちらに来てすぐ、怜一郎さんが買ってくれたものだ。
あたしはここに来る前、少しでもお金を節約するためにガラケーを使っていたのだった。
えっと…。これでいいですか
うん。…じゃ、次は俺の番
すぐに、“一色結人”と書かれたプロフィールを受信した。
それを確認して顔を上げると、結人さんのあたたかな瞳とぶつかった。
いつでも連絡して。
ドアを開け、今度こそ外に出る。
――俺でよかったら、いつでも怜一郎の代わりになるから。
最後の言葉が、なぜかやけに耳に残って仕方がなかった。
