包帯の巻かれている腕を軽く上げると彼女に叱咤された。

どこからか梟の鳴いている声がする。
アヌメールの怪我を思って早々に野宿となった。今日の見張りはイヌメッタがやってくれるらしい。

女の子に、なんて零そうとしたところでイヌメッタに睨まれた。彼女も一緒にいて、アヌメールが何というかなんとなく察すことができるようになっていた。

小意地になっても仕方ない。

薪の爆ぜる音がアヌメールの言葉に対する返答のようだった。

異様な沈黙が場を満たす。
こうして普通に話せているように見えてまだ壁があった。アヌメールは身を縮ませ、焚火の揺らぎを凝視する。

焚火の向こうから消え入りそうな声がしてアヌメールは顔を上げた。

包帯の巻かれた腕を焚火に照らしイヌメッタに見せる。彼女は瞳を見開き、ほんの少しだけ微笑んだ。

恐怖で怯えているだけじゃないかと思う。誰よりも人の怒りに敏感で、穏便に済ませようとしているとも感じる。

それでも、イヌメッタとの関係はそれを抜きにしても壊したくないものだった。初めて【アヌメール】という一人の人間を見てくれる。【劣等種】でも【可哀想な子】でもない。

彼女のアヌメールに対する感情は買い被りな部分があるかもしれない。それでも居心地がいい。

貴方は持っているから大丈夫と優しく諭されていたら、駄目になっていた。彼女が怒ってくれたからこそ地に足がある気がする。

だから、するりと言葉がこぼれていた。

イヌメッタは何を言ってるのという風に首を傾げる。

親でもない。憐れむ目でもない。
何もできないと委縮する自分が、何よりも嫌だった。

何か欲しいと足搔いている。

イヌメッタは浮かせた腰を深く座り直す。伏目がちの瞳は炎の光で煌めいて……まるで星のようだった。

天上を見渡せば、彼女の瞳に宿る光と同等の一等星が瞬いていた。

また自嘲じみたことを思ってしまい仰ぎながら苦笑を漏らす。

イヌメッタが懐から星喰みの水晶をおもむろに取り出す。自身では煌めかなくなったそれは炎に晒されて赤い光を宿す。

イヌメッタはまたそれを目元にやって、夜空に翳した。

イヌメッタの息を呑みこんだ表情に、思わずアヌメールの表情が強張る。
彼女はじっと水晶を覗き込んでいた。その頬は炎の明かりを受けていなくても高揚している。

嬉々として見せてきた星喰みの水晶には、数多の光が宿っていた。まるで星空の一部を食ったようだ。

名のように星空を喰って輝いたのなら、それは外からの力だ、とアヌメールは思う。

ゆっくり探していこう。
いつかはあの場所に戻らなきゃいけないだろう。
でも、今だけは彼女と、模索の旅を続けたい。

イヌメッタの持つ星喰みの水晶に笑い声が吸い込まれた。