そいえば、アクアマリンがなんのためにダミーを作ってまで逃げているのかは、資料に書いていなかった。



青いダミーの発見場所。
聞いて驚け、巨大コインランドリーの洗濯機の中にまぎれてたんだってよ





そんな場所に?





ああ、膝を抱えて、特に抵抗もせず捕まったって。
ダミーちゃんは何がしたいんだろうな。
時間稼ぎだったりしたら怖いけど


そいえば、アクアマリンがなんのためにダミーを作ってまで逃げているのかは、資料に書いていなかった。



アクアマリンって、今までずっとずっと、俺たちから逃げてきたんですか





そうだよ。五十年間ずっとね。
ダミーを作成しては、俺たちを翻弄して、逃げて、また現れて、の繰り返し。
一部では、キルズに対する嫌がらせなんじゃないかって説もある。
何がしたいんだろうな。ま、キルズも半分ほっておいたんだけど、五十年の節目にかな、シグレさんが本気で動き出したわけ。
私がどうにかしてやるわ! ってね


はは、とキツネは寂しそうに笑った。



なんでまたって感じなんだよな、なんで、今さら青い宝石をって、キルズ内でも不思議がられてる





だから、人が集まらなかった?





そ、その通り


キツネは、困ったように肩をすくめた。



あんなに必死に、得たいの知れないものを追いかけてる。
だから、怖いんだ。
……また、話がもどっちまったな!
とりあえず、二体殲滅終了だ。おそらくあと四か五はいるぜ。
頑張ろうな





ええ……





んじゃ、この塔の設備なんかについては、その箱のなかに詳細があるのは知ってるか?


キツネは、部屋のすみにある箱を指差す。
灰色の、部屋の壁に同化している箱だ。
そんなものがあったことにも気がつかなかった。



いえ、知りませんでした





シグレ、ちゃんと説明しろよって感じだよなあ。
昨日の部屋には九時集合で頼む。
それまではそいつでも見て、自由に塔のなかをうろうろしててくれ


じゃあな、とキツネは部屋を後にする。
扉がきちんとしまったことを確認してから、俺はふうとベッドにたおれこんだ。



殺伐としている世界観に突如現れた恋愛要素で、俺は混乱している





といいますと?


サンザシが楽しそうに俺をのぞきこむ。



いやね、恋愛要素はないんじゃないかって、勝手に思ってたわけ。
そうしたら、ある程度童話が絞りやすいじゃん?
でも、もりこまれてしまったからさ……恋愛ものじゃねえだろと思っていたふたつめの例があるし、選択肢が広がっちゃった感じ。
でも、ひとつめみたいにフェイクの可能性も……うああ!





まあまあ! 急ぎすぎると混乱しますよ! ゆっくりヒントを探していきましょう





それもそうか


ヒントと言えば。
俺は立ち上がり、先ほど教えてもらった箱に手を伸ばした。
小さな箱は、上面の蓋をとる仕組みになっていた。
意外に重たいその蓋を取り――



ひえー、サンザシさん、忘れてたよー





何をですか?


元気よく箱の中身を覗いたサンザシは、おやおや、と硬直する。



そういえば、最初に目に入っていましたもんね





忘れてたよね……大量に積み上げられてたってことは


俺は、黒くて重いその物体に手を伸ばした。
手にしっかりとフィットするようになっている、鉄の塊。



俺が使う可能性もあるってことだよね……てか、使えってことだよね


最初に見た光景は、積み上げられた銃だった。
俺が今握っているのも、銃だ。



本物かな?





偽物が入ってるわけ、ないですからねえ


だよねえ。俺は肩を落とす。
これで、あの可愛らしい青い女の子を撃つことになるのか?



勘弁してよー


